あらためて目を戻したカウンターには、鮮やかな紫色の可憐な実をつけたムラサキシキブがさり気なく活けられ、秋の深まりを告げている。
こんな美佐子さんの心遣いで、いつも季節を肴に、うまい酒が飲めるのだ。
「いろんな面ですばらしい女将でね。私らみんな、仕事も歳も、それにもちろん性格だって全然違うんだけれど、ここへ来て彼女に会いたい、のんびり飲みたいっていう気持ちはみんな一緒なんだよ」(60代、サラリーマンOB)
「どこがいいんだか、私にはさっぱりわかりません(笑い)。店自体は息子(亘さん、43歳)に任せてしまっていて、私はごく普通に角打ちおばちゃんをやっているだけなんですけどねえ」と美佐子さんは照れながら、それを打ち消す。
その姿がたまらなくかわいらしいと皆が口をそろえて言う。