未曾有の超高齢化社会の到来を前に、介護の手が足りなくなることが危惧されている。できることなら身内で面倒を見たいのが心情だが、現実的には“プロ”の手を借りるのも選択肢のひとつ。しかし親の側が、老人ホームへの入居に消極的な場合、子どもが手続きを進めても、親は入居を拒むことはできるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
来年で81歳になりますが、生活面では何も不自由していません。しかし、息子と娘が心配だからと老人ホームに入所する手続きを取り始めています。私は老人ホームが嫌いなのです。なのに、無理やり入れようとしていることに納得がいきません。子供らの行為は、私の人権や生活権の侵害になりませんか。
【回答】
子供たちが自分のお金を使って、自分の名前で契約することは自由です。あなたは利用の権利を与えられるだけで、不利益はないからです。しかし、その場合でも、あなたを強制的に老人ホームに連れて行くことはできません。嫌がるあなたを無理やり連れて行けば、強要の罪にもなります。そこまでのことがなければ、断わっておけばよいのです。
契約時に、あなたのお金に手をつけないが、契約自体はあなたの名義で締結するような場合には、将来的にあなたに契約上の義務が発生することになります。そこで、当該施設に自分の意思ではないとして入居契約を認めないことを宣言すれば、より効果的です。
次に、子供たちがあなたの資金を使って老人ホームの入居金に充てようとするなら、お金を渡さなければよいだけです。お金が銀行預金になっており、その日常の出し入れを子供に任せている場合には、通帳・届出印鑑・キャッシュカードを取り戻し、なお心配であれば、支店窓口で今後は代理人なしで自分で出し入れをするから、本人以外には払い戻さないように申し入れておきましょう。
すでに、あなたのお金を使って入居金支払い済みの場合には、施設に契約意思がないことを申し出て、預け金を返却するように要求してください。クーリングオフが認められる場合があります。また、施設がこうした申し出に応じない時には、老人ホームを所轄する都道府県に相談することも有効です。
このように、自衛の手段はあります。しかし、今後も元気でいられる保証はありません。健康なうちは自立して生活できますが、援助が必要になった時には、介護サービスの提供を受けることができる施設もあります。頭から拒否せず、子供とよく相談し、施設見学などもして判断すべきでしょう。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録
※週刊ポスト2014年12月12日号