近年はTBSドラマ『白夜行』での、犯罪に手を染め続ける若い男女を執拗に追い詰める笹垣刑事など、悪の毒を感じさせる役柄も少なくない。
「五十代になった時、『金八先生』の真逆の役を演じたくなったんです。金八は少年少女を見ると、まず『この子たちは悪い子じゃない』と思う。でも笹垣は『こいつらは親を殺しているんじゃないか』と疑う。希望の中で少年少女を見る人に対し、血まみれの地獄から見る人なわけです。ですから、どうしても演じてみたかった役でした。
ただ、制作陣とは喧嘩ばかりしていました。『最後は金八先生みたいに説教してくれませんか』って言うんですよ。『バカヤロウ!』と言いましたよ。『人殺しを金八みたいに許したらいけないだろう!』って。それで最後にセリフを加えたんです。『早く捕まえて、死刑にしたらんで悪かったな』と。そういう優しさもあると思うんです。
目新しい仕事は、割と飛びつくんですよ。スタッフにも、『なるべく仕事を選ぶのはやめよう』と言っています。仕事って、選び始めると最後までずっと迷うようになっちゃうんですよ。
お芝居をしながら、人間の本性を捕まえたいといつも思っています。その捕まえ方が荒くなったり、捕えてなかったりすると、飽きられてしまうと思います。ですから、一シーンについて三通り以上は芝居を考えていきます。演じることに正解はないですから。あまり早めにOKをもらうとガッカリすることもあります。イイのを後にとっておいたりするから」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮新書)、『時代劇ベスト100』(光文社新書)ほか。責任編集をつとめた文藝別冊『五社英雄』(河出書房新社)も発売中。
※週刊ポスト2014年12月26日号