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勝敗の有無が脳に刺激 「遊びリテーション」が認知症に効果

 加齢とともに足腰が弱ると、休んでいる時間がどうしても多くなり、体はもちろん脳も老化してしまう。かといって、年を取ってから体を激しく動かす運動は負担が大きく、高齢者も嫌がる。障害がある場合には運動を続けるのはさらに難しく、自宅にこもりがちになる…。

 そんな高齢者たちにオススメなのが「遊びリテーション」だ。首都圏を中心に老人ホームを運営する「未来設計」の社会福祉士・土居新幸さんが説明する。

「遊びリテーションとは“遊びながらレクリエーションをする生活の場のリハビリ法”です。もともとは理学療法士の三好春樹さんが25年前に提唱しました。骨折や脳卒中などで入院したお年寄りには寝たきりや認知症になる人が多い。体力がない上、環境の変化に弱く、リハビリも進まない。社会復帰を目標とした若い人はつらいリハビリに耐えられますが、お年寄りははっきりした目標を持ちづらく続かないのです。楽しく続けられる遊びリテーションは身体機能の維持向上、体力・筋力アップが期待できます」

 その内容と効果はどのようなものか。土居さんが説明する。

「遊びリテーションは100種類以上あります。車椅子に座ったままでもできるのが『毬つき』です。使用するのは100円均一で売っているような柔らかいボール。握力がまだある程度残っていればバスケットボールでも構いません。楽しみながら適度な運動ができるので、比較的長い時間続けられ、筋力の低下を防げます。

 ひとりでもできますが、子供の頃に歌っていた童謡や数え歌を歌いながら大勢で行ったほうがより楽しい。認知症が進んだ88才のおばあちゃんは車椅子に座っているのも難しい状態でしたが、老人ホームの仲間たちと毬つきを始めたことでベッドから出る時間が増え、昼間のオムツがとれました。看護師さんが驚いていましたよ」

 東京都健康長寿医療センター研究所・老化脳神経科学研究チームの遠藤昌吾さんは、遊びリテーションについて「遊びとリハビリの組み合わせが脳にとてもよい影響を与えている」と分析する。

「単なるリハビリではなく、仲間と触れあいながら日常生活の中で行えて、楽しめる要素が加わっているのがポイントです。米国にはスロットマシンなどを置いている老人ホームがありますが、ゲームでわくわくすると神経活動に影響する物質や脳内麻薬が大量に出るため脳が刺激されます。また、感情が脳に与える刺激も重要です。『勝った』、『楽しい』という感情が脳に強烈な刺激を与えるのです」

 遊びリテーションにはもうひとつ重要な意味がある。それは社会性の維持だ。そのため基本的には大人数でやるものが多い。

「集団で仲間とコミュニケーションをとりながら行うことで、自発性や主体性の回復が期待できます。女の人は友人とおしゃべりや買い物、男性はゴルフ、というように、人はいくつになっても社会との関係性が大事。仲間と大勢でやることで、高齢者にいい影響を与えるのです。お年寄りみんなでゲームをして『すごい』と褒められたり、できる人に教えてもらったりと、コミュニケーションをとることに大変、意味がある。

 障害があり、今までできていたことができなくなると、人に会いたくなくなるものですが、閉じこもって寝てばかりいると、体も脳も退化してしまう。社会に出て、“他人に認めてもらえる”ことが大事です。ひとりでできるようなストレッチ運動も仲間と一緒に『これから肩回しします!』『肩回し終了!』と掛け声を出しながら行います」(土居さん)

※女性セブン2015年2月5日号

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