「体質や環境は人によって大きく異なります。コレステロール値が高すぎて危険な場合もありますが、その場合も問題はコレステロールそのものではなく、生活習慣にあります。生活スタイルの改善こそが必要なことであり、コレステロールの数値だけを見ても意味はありません」
ロルジュリル氏はコレステロール関連の著書が複数あり、その中では「喫煙や運動不足がコレステロール値を高めるケースはある。そうした場合、生活習慣をそのままにして薬剤で数値を下げても、疾患の原因が取り除かれていないので何の意味もない」と指摘している。数値によって“健康”と“病気”の境目をはっきり決める日本の診断に対する痛烈な批判といえる。
米国でも2013年に専門学会の治療ガイドラインからコレステロールの治療目標値が撤廃された。数値にこだわる日本と米欧の違いは明らかだ。
「数値を下げる」ことが重視されれば、結果として利益を得るのはコレステロール低下剤を販売する製薬企業だ。低下剤の市場規模は約3800億円に及ぶ。本誌は日本の厳しい基準値を設定したガイドライン作成委員が、製薬企業から資金提供を受けていたこと、米欧では薬剤の臨床試験やガイドライン作りにあたって製薬企業から研究費を受け取った専門家を外すのが常識になりつつあることも報じた。ロルジュリル氏はこう警告する。
「独立した専門家であることと、企業から資金を受け取ることは両立しません。どの国であっても『公式』『ガイドライン』と名のつくものの作成に携わる専門家は製薬企業から完全に独立した存在であるべきだと思います」
※週刊ポスト2015年4月10日号