ビジネス

奇跡の酒「獺祭」 「杜氏制度廃止」「データ化」によって誕生

 いまや国内外で注目を集める純米大吟醸酒「獺祭」(だっさい)。蔵元の旭酒造の桜井博志社長(64)は、多額の負債を背負いながらも、伝統を刷新することで新たな日本酒造りを模索してきた。ノンフィクションライター・高川武将氏がその復活劇がいかなるものだったかを解説する。

 * * *
 杜氏は農村からの出稼ぎで冬場だけ酒造りに勤しむ。社員の夏場の仕事にしようと、錦帯橋近くに開業した地ビールレストランが3か月で閉鎖、年商2億円と同額の負債を抱えてしまう。

 その冬、杜氏たちは戻ってこなかった。経営危機の噂を聞き、他の酒蔵に移ったのだ。桜井の脳裏に再び自殺の二文字が過ぎる。だが、追いつめられた桜井は、長年の思いを実行に移した。杜氏制度を廃止したのだ。

「酒造りは素人の若手社員4人と、完全に社員で造っていこうと。もう誰にも遠慮する必要はない。自分が一番いいと思う酒を、造りたいように造ればいい。そのために、杜氏の技術をもう一度理論的に検証しながら数値化、データ化していくのが一番いいと」

 背景には杜氏制度への疑問があった。「これは大方の業界人から大反発を食らう話ですが」と前置きをして桜井は話した。

「社長になった頃から杜氏の変質を感じていました。高齢化して後継者も少ない。楽に長く高給を取ろうと守りに入る。若い蔵人は春に村に戻れば農作業の仲間ですから、厳しいことを言えない。人材が育たず、手抜きが出る。農村の疲弊や衰退と共に杜氏制度も限界が来ていた。技術の伝承を杜氏たちに任せるのは酷で、彼らの酒の弱点、欠点を越えることを目指しました」

 思い切った試みは、常に摂氏5度の環境を保つ酒蔵で年間通して酒を造る「四季醸造」という画期的なシステムも生み出した。米は山田錦、酒は純米大吟醸一本。仕事を単純化したことで目標が明確になった。毎年品質は上がり、売り上げは飛躍的に伸びていった……。だが、素人でもデータ化によって旨い酒が造れるとすれば、技術の伝承とは一体何なのだろう。

関連キーワード

関連記事

トピックス

妻とは2015年に結婚した国分太一
《セクハラに該当する行為》TOKIO・国分太一、元テレビ局員の年下妻への“裏切り”「調子に乗るなと言ってくれる」存在
NEWSポストセブン
闇バイトにはさまざまなリスクが…(写真/ゲッティイメージズ)
《警察の仮想身分捜査導入》SNSで闇バイトの求人が減少する一方で増える”怪しげな投稿” 「闇バイト」ではないキーワードが浮上
NEWSポストセブン
無期限の活動休止を発表した国分太一
「給料もらっているんだからさ〜」国分太一、若手スタッフが気遣った“良かれと思って”発言 副社長としては「即レス・フッ軽」で業界関係者から高評価
NEWSポストセブン
ブラジル訪問を終えられた佳子さま(時事通信フォト)
《クッキーにケーキ、ゼリー菓子を…》佳子さま、ブラジル国内線のエコノミー席に居合わせた乗客が明かした機内での様子
NEWSポストセブン
1985年春、ハワイにて。ファースト写真集撮影時
《突然の訃報に「我慢してください」》“芸能界の父”が明かした中山美穂さんの最期、「警察から帰された美穂との対面」と検死の結果
NEWSポストセブン
”アナウンサーらしくないアナウンサー“と評判
「笑顔でピッタリ腕を絡ませて…」元NMB48アイドルアナ・瀧山あかねと「BreakingDown」エース・細川一颯の“腕組み同棲愛”《直撃に「まさしくタイプです(笑)」》
NEWSポストセブン
『ザ!鉄腕!DASH!!』降板が決まったTOKIOの国分太一(右/番組の公式サイトより)
《TOKIO・国分太一が無期限活動休止》「演者とスタッフは“独特の距離感”だった」関係者が明かす『鉄腕DASH』現場の“特殊な事情”
NEWSポストセブン
グラビアのオファーも多いと言われる中川安奈アナ(本人のインスタグラムより)
《SNSで“インナーちらり笑”》元NHK中川安奈アナが森香澄の強力ライバルに あざとキャラと確かなアナウンス技術で「ポテンシャルは森香澄以上」との指摘
週刊ポスト
『ザ!鉄腕!DASH!!』降板が決まったTOKIOの国分太一(右/番組の公式サイトより)
《スタッフに写真おねだりか》TOKIO・国分太一は「コンプライアンス上の問題行為が複数あった」…日本テレビに問い合わせた結果
NEWSポストセブン
不倫が報じられた錦織圭、妻の観月あこ(Instagramより)
《錦織圭・モデル女性と不倫疑惑報道》反対を押し切って結婚した妻・観月あことの“最近の関係” 錦織は「産んでくれたお母さんに優しく接することを心がけましょう」発言も
NEWSポストセブン
お疲れのご様子の雅子さま(2025年、沖縄県那覇市。撮影/JMPA) 
雅子さまにささやかれる体調不安、沖縄訪問時にもお疲れの様子 愛子さまが“異変”を察知し、とっさに助け舟を出される場面も
女性セブン
インドのナレンドラ・モディ首相とヨグマタ・相川圭子氏(2023年の国際ヨガデー)
ヨグマタ・相川圭子氏、ニューヨーク国連本部で「国際ヨガデー」に参加 4月のNY国連協会映画祭では高校銃乱射事件の生存者へ“愛の祝福”も
NEWSポストセブン