「日本酒は日本人の民族性の極致だと思います。室町時代の文献を元に酒を造ると、今のものとは似ても似つかないものになる。それを雇われ人の杜氏たちが、何百年もかけて自ら工夫、改革、改善してきた。ヨーロッパは奴隷制度があった名残か、労働者はたくさんいても、そこまで努力はしませんよね。よくワインは500年前と製造法が変わらないからいいと言いますけど、逆に進歩していないとも言える。でも、日本酒はずっと変わり続けている。そこに一つの真骨頂があります。
ワインは料理とマリアージュすると言います。歪なもの同士の調和がかみ合う時もあれば、反目することもある。日本酒はちょっと違うんです。どんな料理とも対立しない。寄り添う、包み込む。それは日本の文化、歴史、社会と共に育まれたからですよね」
桜井は伝統を捨てたのではない。むしろ伝統を守るために、やり方を変えたのだ。
※SAPIO2015年5月号