国際情報

入国カウンターで待たされる中国人 日本より評価低いと嘆く

  日本を敵視しつつも、憧れを抱いてしまう中国人。実際に日本を訪れれば、日本人の「おもてなし」の精神やマナーの良さに魅了される。日本の実情を目のあたりにして帰国後、ネットを通じて日本を礼賛する中国人も多い。東京大学大学院法学政治学研究科教授でアジア政治外交史を専門とする平野聡氏がその根底にあるものが何かを解説する。

 * * *
 日本に憧れる中国人がいる一方で日本を嫌悪する中国人も少なくない。それは共産党が「日本が釣魚島(尖閣諸島を一般的に指す)を奪った」、「日本は戦争でひどいことをした」と常時人民にプロパガンダした結果だ。

 実際に抗日戦争を正面から戦ったのは中国国民党だが、共産党は自らの英雄的な戦いで抗日戦争を勝ち得たというストーリーを作り上げ共産党支配の根拠としている。共産党は、幹部の腐敗などの矛盾が明らかになるほど、抗日という「分かりやすい物語」を繰り出して護身するため、それを刷り込まれた一般民衆は日本への複雑な思いを抱く。

 現在習近平は、躍進する中国が世界の中心に返り咲いて世界に恩恵をもたらすという「中国夢」(チャイニーズ・ドリーム)を掲げる。ところが、そんな中国の人々がいざ海外に出ると、ビザ免除の主要国が少なく、多くの国の入国カウンターで待たされることが多い。

 これに対して日本のパスポートはビザ免除または簡便なビザ取得に恵まれ、入国審査も早く、「世界最強」クラスである。多くの中国人は「中国は平和的に発展して豊かになったのに、国際社会で日本より評価が低いのは何故か」と嘆く。

 その理由は明白である。経済発展したとはいえ、中国の内情はいまだ生存競争の激しいカオス(混沌)であり、何かを得るには他人を押し退ける必要があり、法の支配が及ばず、汚職が横行する。しかも毛沢東の苛政やその後の激しい競争社会で、人々の相互信頼は弱まってしまった。中国人は100年前に孫文が嘆いた「バラバラな砂」のままである。

 自国の同胞すら信用せず、自分さえよければ何をしても良いという態度の延長に昨今の周辺外交があり、各国の警戒を招いている。

 こういった国際社会からの信頼性の欠如は中国人に大きな不安を与える。日本を意識し、日本のようになりたいが、国際社会は日本ほど中国を評価しない。日本に対する憧れとコンプレックスが複雑に絡み合い、日本の些細な行動にも過敏に反応するのが現在の中国なのである。

 一方、抗日戦争勝利が政権存続の唯一の正統性である共産党にとって、中国が日本を目指して模倣を続け、結果として日本になり損ねた劣化コピーであるという「不都合な真実」はますます覆い隠す必要がある。

 今後も共産党は自らの権力を維持するため、常に日本の先例に学ぶ一方、反日プロパガンダを完全に止めることはないだろう。

※SAPIO2015年6月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さんが今も築地本願寺を訪れる理由とは…?(事務所提供)
《笑福亭笑瓶さんの月命日に今も必ず墓参り》俳優・山口良一(70)が2年半、毎月22日に築地本願寺で眠る亡き親友に手を合わせる理由
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン