芸能

左とん平 謹慎後に舞台立つ機会くれた森繁久彌とのエピソード

 半世紀を超える芸能生活は波瀾万丈を地で行く七転八倒ぶり。ポーカー賭博による3度の逮捕では世間からの批判も浴びた。しかし周囲には変わらず、厳しくもあたたかく彼を見守るたくさんの仲間たちがいた。このたび、めでたく喜寿を迎えた名優・左とん平(78才)が、今は亡き森繁久弥さん(享年96)との交遊録を初めて明かした。

 * * *
 大物俳優といえば、芸能界に憧れるきっかけとなった森繁久彌との思い出も忘れられない。

「2回目に捕まったとき、ちょうど森繁さんの舞台に出ていたんだよね。2か月公演なのに1か月も穴をあけることになってしまって。事情を説明しても何も責めない。ただ、“しょうがないな。ちょっとの間、ゆっくり休めよ”って言ってくれてね」

 このとき、森繁は1つだけアドバイスをくれた。「いいか、この時期こそカネ使えよ」という言葉だった。

「こういう時期だからこそ、相手に気持ちが負けていないことを伝えなきゃいけない。“左さんは今は大変な時期だから”と言われて、“じゃあ、ごちそうになります”じゃいけない。こんなときこそ、相手に“そんなに気前よく使って大丈夫なの?”って思わせなきゃ。このアドバイスを聞いたときは、“やっぱり、森繁さんは大物だ”と思ったな」

 とん平にとって、森繁は「ザ・座長」というべき風格を備えていた。

「森繁さんほど、“座長”という名にふさわしい人はいなかったな。いつも出演者を連れて大人数で食事をしてね。でも、“あの映画のあの場面はよかったですね”とか、昔の話をしてもすぐに話題を切り替えるんだ。過去のことよりも、現在の話をするのが好きだった。面倒見の良さは天下一品で、ぼくが今みんなで食事をしていろいろな話をするようにしているのは完全に森繁さんの影響だね」

 今でも、とん平は多くの仲間を引き連れて、その食事代をすべて彼が支払っている。「ギャンブルよりもずっと安上がりだよ」ととん平は笑う。それは、森繁の姿から学んだ「生きた金」の使い方だった。

 謹慎が明けた後、森繁は再び舞台に立つチャンスをくれた。それが、とん平の代表作となる『佐渡島他吉の生涯』だった。この芝居で、10分以上も延々とひとりでしゃべり続けるシーンがある。その演技に観客は大いに笑わされ、同時にジーンと胸を打たれる。「ようやく演技のコツをつかんだ」、とん平が実感した瞬間だった。この場面を見て森繁は言った。

「お前が、あんなに上手な役者だとは思わなかったよ」

 2007年、とん平の「芸能生活なんとか50周年を祝う会」の案内状に森繁はこんな言葉を寄せている。

「あたふたと、あっと驚く50年。お前さんの当たり役の『佐渡島他吉の生涯』の橘玉堂は、本当にうまかったなぁ…。玉堂のセリフじゃないが“人生の浮き沈み”があったが…。お前さんはかわいい洒落たやつだ。とにかくおめでとう。なによりおめでとう。バンザイ、バンザイ」

 森繁は、とん平の持つ「人としての愛敬」が好きだった。しかし、それ以上にその「芸」を高く評価していたのだ。

取材・文■ノンフィクションライター・長谷川晶一

※女性セブン2015年6月11日

関連キーワード

関連記事

トピックス

無期限の活動休止を発表した国分太一(50)。地元でもショックの声が──
《地元にも波紋》「デビュー前はそこの公園で不良仲間とよくだべってたよ」国分太一の知られざる “ヤンチャなTOKIO前夜” 同級生も落胆「アイツだけは不祥事起こさないと…」 【無期限活動停止を発表】
NEWSポストセブン
広島県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年6月、広島県。撮影/JMPA)
皇后雅子さま、広島ご訪問で見せたグレーのセットアップ 31年前の装いと共通する「祈りの品格」 
NEWSポストセブン
草野刑事を演じた倉田保昭と響刑事役の藤田三保子が当時を振り返る(撮影/横田紋子)
放送50年『Gメン\\\\\\\'75』 「草野刑事」倉田保昭×「響刑事」藤田三保子が特別対談 「俺が来たからもう大丈夫だ」丹波哲郎が演じたビッグな男・黒木警視の安心感
週刊ポスト
月9ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』主演の中井貴一と小泉今日子
今春最大の話題作『最後から二番目の恋』最終話で見届けたい3つの着地点 “続・続・続編”の可能性は? 
NEWSポストセブン
TOKIOの国分太一(右/時事通信フォトより)
《あだ名はジャニーズの風紀委員》無期限活動休止・国分太一の“イジリ系素顔”「しっかりしている分、怒ると“ネチネチ系”で…」 “セクハラに該当”との情報も
NEWSポストセブン
『ザ!鉄腕!DASH!!』降板が決まったTOKIOの国分太一
《どうなる“新宿DASH”》「春先から見かけない」「撮影の頻度が激減して…」国分太一の名物コーナーのロケ現場に起きていた“異変”【鉄腕DASHを降板】
NEWSポストセブン
日本のエースとして君臨した“マエケン”こと前田健太投手(本人のインスタグラムより)
《途絶えたSNS更新》前田健太投手、元女子アナ妻が緊急渡米の目的「カラオケやラーメン…日本での生活を満喫」から一転 32枚の大量写真に込められた意味
NEWSポストセブン
出廷した水原被告(右は妻とともに住んでいたニューポートビーチの自宅)
《水原一平がついに収監》最愛の妻・Aさんが姿を消した…「両親を亡くし、家族は一平さんだけ」刑務所行きの夫を待ち受ける「囚人同士の性的嫌がらせ」
NEWSポストセブン
中世史研究者の本郷恵子氏(本人提供)
【「愛子天皇」の誕生を願う有識者が提言】中世史研究者・本郷恵子氏「旧皇族男子の養子案は女性皇族の“使い捨て”につながる」
週刊ポスト
夫・井上康生の不倫報道から2年(左・HPより)
《柔道・井上康生の黒帯バスローブ不倫報道から2年》妻・東原亜希の選択した沈黙の「返し技」、夫は国際柔道連盟の新理事に就任の大出世
NEWSポストセブン
新潟で農業を学ことを宣言したローラ
《現地徹底取材》本名「佐藤えり」公開のローラが始めたニッポンの農業への“本気度”「黒のショートパンツをはいて、すごくスタイルが良くて」目撃した女性が証言
NEWSポストセブン
1985年春、ハワイにて。ファースト写真集撮影時
《突然の訃報に「我慢してください」》“芸能界の父”が明かした中山美穂さんの最期、「警察から帰された美穂との対面」と検死の結果
NEWSポストセブン