29歳で刑死する松陰は、長丁場の大河ドラマの重要人物として取り上げるにはエピソードに乏しい。それだけに門弟や同志からの絶縁状に等しい血判状を親友の桂が届けるというエピソードは大きなヤマ場になりそうなものだが、桂が登場しないばかりに、あっさりと流されている。
この場面に限らず、『花燃ゆ』では不思議なほど松陰と桂は“共演”しない。その代わりに登場するのが後に文の再婚相手となる小田村伊之助(大沢たかお)である。史実では桂がしたことを、ドラマでは小田村にやらせているのだ。
第17話『松陰、最後の言葉』(4月26日放送)では、斬首刑に処された松陰の遺品を小田村が萩に持ち帰るシーンがある。しかし、『松菊木戸公伝』(木戸公伝記編纂所編)などの史料では、桂が伊藤利輔(後の博文)らとともに江戸の小伝馬町牢屋敷へ松陰の遺品を引き取りに行ったとされている。
「この時期、小田村は江戸に行っていません。小田村は周防三田尻(現・山口県防府市)の越氏塾に赴任していた。松陰の遺品を親友の桂が引き取るシーンはドラマの見せどころになりそうですが、なぜか小田村を登場させている。他にも松陰に関係するシーンで桂が登場せず、小田村に置き換えられているところがある」(前出の郷土史家)
歴史ファンが「なぜ小田村が桂の功績を横取りするのか」と声を上げるのも当然だろう。
※週刊ポスト2015年6月19日号