アベノミクスで日経平均株価は2倍以上になり、株や現預金などの国民の個人金融資産は見かけ上、安倍政権発足時(2012年末)の約1552兆円から約1694兆円(2014年末)へと2年間で142兆円も増加した。大メディアは「過去最高を更新」(日経新聞2015年3月18日)とヨイショしている。
だが、それはあくまで「円」で見た数字だ。市場が自民党政権復活を見越してドル円レートがはっきり上がり始めたのは2012年11月16日の衆院解散時からだ。その日のレートで、データがある一番近い2012年末の個人金融資産をドル換算すると約19兆1000億ドルあったが、現在は13兆5500億ドルと約5兆5500億ドル(約700兆円)も目減りしているのである。
そのカネがあれば何が買えたかを考えると、失ったものの大きさがわかる。
時価総額世界首位の米国アップル社(7505億ドル。5月末株価)をはじめ、マイクロソフト(3790億ドル)、グーグル(3720億ドル)や石油メジャーのエクソン・モービル(3560億ドル)など世界トップ10の企業の全株式を買い占めても3兆7380億ドルでまだお釣りがくる。
トヨタなど東証(時価総額約4兆8000億ドル。6月10日時点)に上場している全企業、あるいは成長著しい中国の上海証券取引所(約5兆ドル)の全上場企業を買収できた。それだけの資産を、日本の国民はわずか2年間で失ったのである。
直近の急激な円安進行に慌てたのか、日銀の黒田東彦・総裁は国会で「さらなる円安はありそうにない」と“口先介入”。発言を受けて1ドル=122円台まで戻したが、それも今の円安が日本にマイナスだと(口には出せないが)気づいているからだし、市場が過剰に反応したのも、“今の円安はヤバイ”と思っているからである。
※週刊ポスト2015年6月26日号