現在、警視庁組織犯罪対策課が内偵に注力しているのは、診療報酬不正請求事件だ。患者に治療を施した以上の診療報酬を国から詐取する組織犯罪で、中核は若手の暴力団構成員が多い。そこで、不正請求に協力するクリニックなどに患者を連れて行く役割を果たしていたのは、半グレと呼ばれる不良集団だ。
半グレは暴力団構成員ではないので警察からマークされにくいものの、暴力性やそのネットワークは暴力団組織にも劣らない。いまや振り込め詐欺や不正請求事件の中心といっていい。
資金力を増した半グレ勢力は都内の盛り場を中心に既存の暴力団と対立することもある。
昨年7月、東京・赤羽の路上で中国残留孤児の2世、3世らで結成する不良グループ「チャイニーズドラゴン」のメンバーと、山口組系の組員ら10数人が入り乱れて乱闘し、人数の劣る山口組系組員1人が重さ8kgの木の板で殴られ、頭蓋骨骨折など6か月の重傷を負った。この事件ではこの5月に双方で計7人が逮捕された。
警察の監視が厳しい暴力団構成員は組長ら幹部への波及を恐れて喧嘩できない。それに対して半グレには盃で縛る上下関係もなく、暴対法や暴排条例もないので当局による締め付けも厳しくない。半グレの中でも最大級のグループである関東連合のOBはこううそぶく。
「(構成員の)回状を回すとか、盃を交わすとかの決まりがないので、警察は我々1人ひとりを認定できない。だから風俗や飲食といった表の仕事もできる。
一番確実な儲けはインサイダー取引です。それにはゲームソフトやアプリ開発といった勢いのある企業に入り込めばいい。我々なら暴力を使ってトラブル処理もできる。暴力団員なら企業に入り込むことなんてできっこない。今時、暴力団に入るのはバカですよ」
「暴力団壊滅作戦」の次に警察権力が見据えるべきは一般人の顔をして犯罪に手を染める半グレ集団の取り締まりだろうが、今はまだ野放し状態といっていい。
前門には警察の執拗な睨みがあり、後門には台頭する半グレが控えている──狭間で揺れる暴力団はいよいよ追い込まれてきた。
※週刊ポスト2015年6月26日号