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【書評】限りなく全体主義的だった「戦前のアメリカ」を検証

【書評】『三つの新体制 ファシズム、ナチズム、ニューディール』W・シヴェルブシュ著/小野清美、原田一美訳/名古屋大学出版会/4500円+税

【評者】井上章一(国際日本文化研究センター教授)

 第二次世界大戦は、日独伊の枢軸国と英米を中心とする連合国があらそった戦争である。これに勝った連合国は、敗戦国を非道なファシズム陣営として、ひとくくりにした。と同時に、自分たちのことは、正義の民主主義国側だと位置づけている。そして、敗戦国はこの評価をうけいれた。そうしなければ、戦後の国際社会へ復帰することは、できなかったのである。

 ただ、この政治的な分類に社会科学的な妥当性があるとは、言いきれない。戦前戦時の日本が、ファシズム体制を樹立したという見解は、今日否定的に論じられている。全体主義国家であったソビエトも、民主的とは言いがたい。

 さて、アメリカは一九三三年から、ニューディールとよばれる政治をすすめている。金融恐慌からぬけだすため、大統領のローズヴェルトは革新的な手法にうってでた。そして、そのやり方は、ムソリーニがイタリアでくりひろげた統治術ともつうじあう。

 じっさい、戦前期にはファシズムとニューディールの通底性が、しばしばことあげされた。多くの論客が、ローズヴェルトをムソリーニの亜流だと、論じている。また、ローズヴェルトじしん、非公式の場ではファシズムへの共感を、かくさなかった。

 では、じっさいのところ、ニューディールは、どのていどまでファッショ的だったのか。この本は、戦前のアメリカを、ファシズムのイタリアやナチズムのドイツと、くらべている。そして、たがいの類似性をさまざまな局面の、いろいろな段階に抽出した。ニューディールが、かぎりなく全体主義的であった様子を、うかびあがらせている。もちろん、たがいにかさなりあわない部分への言及も、おこたってはいないが。

 テネシー川流域の開発が、ナチスのアウトバーンと対比されるところは、なかでも圧巻。建設事業が大衆動員においてはたす役割を論じたくだりは、読みごたえがある。戦後日本の黒部ダムや本四架橋を、同じような視点から、とらえなおしたくなってきた。

※週刊ポスト2015年7月17・24日号

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