なべ:座っていると、先輩が肩を揉んでくるんです。緊張して「やめてください」と振り払おうとすると、「いいのいいの、ね」って肩を揉みながら、「お金貸してくれないかな?」。刑務所よりヒデエじゃねえかって。それは〆さばさんでしたね。無法地帯ですよ(笑い)。

――その猛者たちを、たけしさんが束ねているわけですよね。

なべ:たけしさんは絶対的なところがあります。ピラミッドの頂点がたけしさんで、本来はそこが怒る前に中間が怒るんです。それがガダルカナル・タカさんやダンカンさん、つまみ枝豆さんなんですけど、強烈なんです。理にかなっている怒りもあれば、全くそうじゃないときもあるんです。

 ダンカンさんでいえば、阪神が追い込まれていると危険です。9回裏、最後の攻撃で5-0で阪神が負けているとしましょう。「阪神は負けるのか?」って聞かれるわけです。「ここから連続ヒットが出て、ホームランで逆転ですよ!」と言うと、「野球をなめてんのか!」って殴られる。「今日はだめですね」と言うと、「そんなネガティブでいいのか!」って、やっぱり殴られるんです。理不尽な世界ですよ。でも、そこをどう切り抜けるかが、大切なんですよね。

――そこで身についたものはありますか?

なべ:たとえば先輩がピリピリしているときに、ラーメンを床に落とした若手がいるんです。「誰だ、うるせえな!」って言われた若手は、落ちた麺を拾って、はみ出しながら全部ポケットに入れて、「なにも落としてません!」って。場が爆笑に包まれて、それはそれでOKになったりするんです。

――ある意味、機転ですね。

なべ:頼まれた手紙を出し忘れて、「まだここにあるじゃねえか」とバレたときには、「まだ書き足すことがあるんじゃないですか?」って言えればOK。無理難題を押し付けられるんですが、その難題をどうクリアするかで、「芸人としてトークのエピソードになるでしょ」というところもあるんです。

――トップのたけしさんは滅多に怒らないという中で、たけしさんに怒られた思い出はありますか?

なべ:真剣に怒られたのは、若手がネタを作っていない、たるんでると指摘されたときです。たけしさんが怒ってしまって、それは狂気というか…。若手全員がネタ見せをすることになりました。たけしさんの楽屋に入って、ぼくらは正座をするんですけど、たけしさんはぼくらに背を向けたまま、テレビを見ているんです。「早くやれよ! 誰からなんだよ!」って。1人ずつ出ていって、「はい、どうも」ってやると「声ちいせえよ!」とか怒られました。ずっと背を向けたままですよ。

  何番目かの若手が、「はい、どうも…」って始めて。「声がちいせえよ」「はい、どうも」「ちいせえっつってんだよ!」「は、はい、どど、どうも…」「言ってる意味がわかんねえよ!」とやっているうちに、緊張のあまり若手が泡吹いて倒れそうになったんです。そうしたらたけしさんが慌てて振り向いて「おい、大丈夫かよ」って。そこからちょっと和んでいって(笑い)。「漫才ってのはよ、立ちかたがこうで、足の向きはこうで…」ってたけしさんが漫才の指導に入っていったんです。

――たけしさんの手ほどきは貴重ですね。個人的に怒られたこともありますか?

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