事件当日、廊下で転倒した妻から「もう痛みに耐えられない。何もできない、苦しいだけ。殺してほしい」と懇願された。
“もう断われない”──。
宮本被告は決心した。その日の夜、妻に添い寝をした。出会った頃に遡り、新婚生活、子供が生まれた時のことなど、楽しかった思い出を妻に語り続けた。その時の様子を宮本被告は公判でこう語っている。
「妻はニコニコしていた。とても綺麗だった」
60年分の思い出話を語り終えた後、被告はネクタイを手に取った──。
検察から懲役5年を求刑された時にはこう答えた。
「私がしっかりした男だったら(もっと)上手な対応を取ったと思う。今でも妻を愛しています」
判決後、裁判官は被告に優しく語りかけた。
「奥さんが悲しまないよう、穏やかな日々をお過ごしになることを願っています」
※週刊ポスト2015年9月4日号