実際、宮本氏はこれまでの診療経験の中で、そういう患者をたびたび目にしてきた。1人で座ることもできない重度の認知症があり、老衰のA子さん(享年96)のケースでは、本人が延命治療を望んでいなかったため、点滴や経管栄養は行なわず、食事は「食べられるだけ、飲めるだけ」にした。
亡くなる1か月前から食事は数口に減り、2週間前には少量のお茶を飲むだけになった。しかし亡くなる4日前でも「温かいお茶が飲みたい」と希望を口にし、前日には「ありがとう」と宮本氏に言った。死亡直前、家族が病院に向かっていることを伝えると「そうかい」と返答。その8時間後に亡くなったが、最期まで話すことができた「安らかな死」だったという。
「他にも、延命はせず自宅で看取ることを選んだ複数の患者さんがいましたが、皆さん静かに息を引き取られ、家族の方が『こんな穏やかな死に方もあるのですね』と驚かれていました」(同前)
※週刊ポスト2015年9月11日号