内容も「ちょい呑み」系らしく、生ビール(ザ・プレミアム・モルツ)や角ハイボールを280円で提供。しかも2杯目以降は200円。ほかにも板わさに卵焼きなど、いかにも蕎麦屋らしいつまみもある。セットメニューの「ちょい呑みセット」はビールに枝豆、玉子焼きで580円ぽっきり。もちろんお通し代やチャージもつかない。
「蕎麦屋」ならではのおつまみメニューもある。「天ぷらそばのそば抜き」の「天ぬき」だ。文字通り天ぷらそばからそばを抜いたもので、最近では裏メニューのようにも位置づけられている。ふじ酒場の天ぬきは、かき揚げ、ちくわ天、春菊天、いか天など。立ち食い蕎麦店だけあって、価格も110~130円と格安だ。
惜しむらくは、ふじ酒場の「天ぬき」は皿に盛られた天ぷらにかけつゆが少しかかっているだけという、ややさみしげな風情だが、考えてみれば天ぷらだけ食べるなら、つゆが丼になみなみと注がれている必要はない。つゆに泳ぐ「ぬき」が食べたければ、老舗にいけばいいのだ。代わりにふじ酒場には「カツカレー ライス抜き」というオリジナルメニューもある。
江戸時代から、酒は庶民の楽しみだった。海苔や板わさなどで一杯やることを「蕎麦前」と呼ぶほど、蕎麦屋の居酒屋使い――蕎麦屋酒は大衆文化として定着していた。「ふじ酒場」で蕎麦屋酒を覚えた客が老舗の蕎麦屋で酒を嗜むようになり、現代で失われつつある「粋」を覚えていく。その端緒が、現代の大衆食の象徴とも言える「富士そば」や「吉野家」だとしたら、それはちょっと楽しいことのような気がする。