芸能

ドラマ化を決定づけた『あさが来た』モデルが残した言葉とは

 九転十起──九回転んだら、十回起き上がればいい。七転び八起きよりも2回多く転び、2回多く立ち上がる。幕末に生まれ、明治・大正を生きた実業家・広岡浅子はこの言葉を自分のポリシーにしていた。

 浅子はNHKの連続テレビ小説『あさが来た』ヒロイン・あさのモデルになっている。エグゼクティブ・プロデューサーの佐野元彦さんがその理由を明かす。

「第1次世界大戦の足音が聞こえていた1900年代前半、浅子さんは『これからの時代には女性のやわらかな力が必要になります』という言葉を残しています。物事を力尽くで解決する力でなく、そうではない力が必要なんですということを語っているわけです。その言葉を、その時代に言い切れる強さやポリシーが彼女にはあった。ぼくはそれを知って、この人をモデルにしたいと思ったんです」

 ヒロインを演じる波瑠(24才)も、彼女に惹かれてやまない。

「男社会の中で自分だけしかできないやり方で闘っていたかたです。強さと一緒にやわらかさが備わっている女性だと思います」(波瑠)

 今から約80年前、日本で初めての女性有名人の人名を集めた『大日本女性人名辞書』(厚生閣刊)が出版された。1700人の名前の中に、浅子も選ばれている。14行にわたって彼女の人生が紹介されていて、その一文にはこうある。

《七十一歳(数え年)で、線の太い、精力的な生涯を終った》

 事実、彼女の人生は驚くほど破天荒。そのドラマチックな人生とは──。

 ペリーが浦賀に来航する4年前の1849年、浅子は京都の豪商・名門三井家の4女として生まれた。1才の時には将来の夫が決められた。親はその日に備え、浅子に華やかな着物を着せて、裁縫や茶道、華道を教えこもうとするが、そうした花嫁修業にはまったく関心を示さなかった。

 朝ドラ原案の小説『新装改訂版小説土佐堀川──女性実業家・広岡浅子の生涯』(潮出版社刊)著者の古川智映子さんは言う。

「丁稚とお相撲を取るのが大好きだった。相撲を取ると髪を結い直すことになって、そのたびに親から叱られていたそうです。ある日、浅子は、叱られたくないと髪をバッサリ自分で切ってしまう。普通の子と発想が違う子でした」

 庭にいた蛇のしっぽをつかんで振り回して遊ぶこともあったという。体を動かすだけでなく、本を読むのも好きだった。ただ、当時は女子に学問は不要という考えが一般的で、広岡家も例に漏れなかった。12才のときには、一切の読書の禁止が言いわたされた。そのときにこんなことを考えた。

《「女子といえども人間だ。学問の必要がないという道理はない。学べば必ず修得できる頭脳があるのだから、どうにかして学問をしたいものだ」》(『[超訳]広岡浅子自伝』〈KADOKAWA刊〉)

 産経新聞紙上に浅子のノンフィクションを連載した編集委員の石野伸子さんが言う。

「普通ならがっかりしてしまうけど、浅子は致し方ないと受け止めたんです。それだけでなく、いつかは絶対に本を読んでやるという反骨の気持ちを自分の中に溜め続けた」

 16才で大阪の豪商・広岡家に嫁いだ。夫の信五郎は遊び好きで家業に無頓着だった。

 明治という新しい政府の足音を感じ取っていた浅子は、いつまでもこんな生活が続くわけがないと、簿記や算術、商業を独学で学んだ。夫は読書を禁じることはなく、時には冗談半分に浅子を「先生」と呼んでいた。

※女性セブン2015年10月15日号

関連記事

トピックス

お仏壇のはせがわ2代目しあわせ少女の
《おててのシワとシワを合わせて、な~む~》当時5歳の少女本人が明かしたCM出演オーディションを受けた意外な理由、思春期には「“仏壇”というあだ名で冷やかされ…」
NEWSポストセブン
『サ道』作者・タナカカツキ氏が語る「日本のサウナ60年」と「ブームの変遷」とは
《「ととのった〜!」誕生秘話》『サ道』作者・タナカカツキ氏が語る「日本のサウナ60年」と「ブームの変遷」
NEWSポストセブン
広陵野球部・中井哲之監督
【広陵野球部・被害生徒の父親が告発】「その言葉に耐えられず自主退学を決めました」中井監督から投げかけられた“最もショックな言葉” 高校側は「事実であるとは把握しておりません」と回答
週刊ポスト
薬物で何度も刑務所の中に入った田代まさし氏(68)
《志村けんさんのアドバイスも…》覚醒剤で逮捕5回の田代まさし氏、師匠・志村さんの努力によぎった絶望と「薬に近づいた瞬間」
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《ずっと若いママになりたかった》子ども好きだった中山美穂さん、元社長が明かした「反対押し切り意思貫いた結婚と愛息との別れ」
週刊ポスト
連敗中でも大谷翔平は4試合連続本塁打を放つなど打撃好調だが…(時事通信フォト)
大谷翔平が4試合連続HRもロバーツ監督が辛辣コメントの理由 ドジャース「地区2位転落」で補強敢行のパドレスと厳しい争いのなか「ここで手綱を締めたい狙い」との指摘
NEWSポストセブン
伊豆急下田駅に到着された両陛下と愛子さま(時事通信フォト)
《しゃがめってマジで!》“撮り鉄”たちが天皇皇后両陛下のお召し列車に殺到…駅構内は厳戒態勢に JR東日本「トラブルや混乱が発生したとの情報はありません」
NEWSポストセブン
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《早穂夫人は広島への想いを投稿》前田健太投手、マイナー移籍にともない妻が現地視察「なかなか来ない場所なので」…夫婦がSNSで匂わせた「古巣への想い」
NEWSポストセブン
2023年ドラフト1位で広島に入団した常廣羽也斗(時事通信)
《1単位とれずに痛恨の再留年》広島カープ・常廣羽也斗投手、現在も青山学院大学に在学中…球団も事実認める「本人にとっては重要なキャリア」とコメント
NEWSポストセブン
芸能生活20周年を迎えたタレントの鈴木あきえさん
《チア時代に甲子園アルプス席で母校を応援》鈴木あきえ、芸能生活21年で“1度だけ引退を考えた過去”「グラビア撮影のたびに水着の面積がちっちゃくなって…」
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《ラーメンにウジ虫混入騒動》体重減少、誹謗中傷、害虫対策の徹底…誠実な店主が吐露する営業再開までの苦難の40日間「『頑張ってね』という言葉すら怖く感じた」
NEWSポストセブン
暴力問題で甲子園出場を辞退した広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
【「便器なめろ」の暴言も】広陵「暴力問題」で被害生徒の父が初告白「求めるのは中井監督と堀校長の謝罪、再発防止策」 監督の「対外試合がなくなってもいいんか?」発言を否定しない学校側報告書の存在も 広陵は「そうしたやりとりはなかった」と回答
NEWSポストセブン