隈氏を知る建築家の松島潤平氏も口を揃える。
「地元特有の木や石といった素材や職人技術の生かし方がうまく、和をイメージした建築に定評がある。都市部では通常、万が一の火災のために木材を使わないのですが『浅草文化観光センター』(東京都台東区)を手掛けた際には不燃木材を使用してまで木の素材感にこだわりました」
隈氏はその建築哲学について2007年放送の『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)においてこんな発言をしている。
「『負ける建築』が流儀。建物が自己主張するのではなく周囲に溶け込み、環境に“負ける”ことを目指す」
その実務はユニークだ。最先端の技術を使用しているのかと思いきや、「設計にコンピューターは一切使っていません。頭の中でうまく整理するようにしている。ほとんど原始人」と同番組で発言。木材を利用するようになった理由については、
「コンクリート建築の図面なんて建築を勉強した人だったら誰だって描ける。だが、木を使った建築というのはすごく難しい。でも、やってみるとその制約があることがおもしろくなることに気付いた。制約こそが建築のオリジンだと思っています。だから誰もやったことがない建築に挑戦している」
隈氏はどのような新国立競技場をデザインしてくるのだろうか。
「新国立競技場の外装にも木を用いる可能性が高いのではないでしょうか。近寄ったときに人間味のある素材感を大切にする人なので、外形デザインも圧迫感のない、温かみのあるものにするでしょう」(前出・松島氏)
※週刊ポスト2015年10月16・23日号