芸能

イッセー尾形が9年ぶり映画主演 過去30年間はモグラのよう

イッセー尾形9年ぶりの主演映画『先生と迷い猫』

 本誌映画担当・活動屋映子が話題の映画出演者に迫る企画。今回登場するのは、9年ぶりの映画主演でネコと共演したあの人です!

 * * *
 主演映画『先生と迷い猫』の彼の役は、カタブツでヘンクツな中学校の元校長――ご本人もやっぱり、というこちらの悪い予想は早々に裏切られ、イッセー尾形さん(63才)はのっけから笑顔。「よろしくお願いします」と深々と頭を下げてインタビューは始まった(ホッ)。

――9年ぶりの主演映画ですね。待ってましたとの声も多いのでは?

「いえ、映画には出させてもらってたけど、主演のオファーが、この作品までなかったんですよ(笑い)」

――あら! そうなんですか、てっきり作品を選んでいらっしゃったのかと思ってしまいました(汗)。

「いやいや、ははは」

――では改めて、この作品の出演の動機をお聞かせください。

「最初にプロデューサーのかたに会ったんですが、“猫が、猫がね”“猫が”って猫しか言わないんです。“猫がどうするんです?”と聞いたら、“猫がいなくなるんです”って(と、前に体を乗り出し、満面の笑みでニヤリ)。だから、それで映画ができるのか、聞いたんですけどね(笑い)」

 思わぬ「猫」の連呼に、こちらもつられ笑い。そんな私たちにさらにイッセーさんがたたみかけた。

「台本もらって読んでも、これだ!というものがない。不安を抱えたまま、ロケ地の下田へ行きました」

――エーッ!! でも、伊豆半島の下田あたりでのロケ、いい雰囲気が画面から伝わってきましたね。

「はい。そのロケの第1日目、ぼくが扮した校長先生のところに染谷(将太)くんが訪ねてくるシーンから撮影は始まったんです。いきなり彼がダーッと風のようにやってきて、ぼくはどう受けていいのかわからない。ところが、監督が“すごく、いいですね”と言う。ああ、そうか、こういう作為的じゃないのがいいのか、と。自分の素なのか演技なのか自分でもわからない、すれすれのところを狙っているんだな、と」

 作品は、イッセー尾形扮する妻に先立たれた元校長先生と、野良猫の交流を軸に、市役所の職員(染谷将太)や美容院の店主(岸本加世子)、元教え子のクリーニング屋のアルバイト娘(北乃きい)など町の人々が絡んで、温かなドラマが展開する。

――ライフワークでもある一人芝居をはじめ、役作りはどんなところから入るんでしょう?

「完璧に作り込む、というのを長年やってきたけど、そうじゃないものをやってみたいなあ、と実は思っていたんだなあ、ということがこの映画でわかったんです。この人物はこうだからこう演じるとか、そんなに決めてかからないで、淡くにじみ出るものをすくい取ればいいんじゃないか、と。ガッシャンとドアを開けるんじゃなくて、猫が隙間からそーっと入るように、役に入っていってもいいなあ、と思ったんです」

 時々身ぶり手ぶりも交じりながら、キラキラしたやさしい目で、静かに語る。

「映画の中でぼくが演じる主人公は、死んだかみさんへの思いを引きずっています。どこかで吹っ切って、1人の生活に慣れなければと思っている。でも、はたと腑に落ちるんです。いつまでも未練がましく引きずったままでいいんじゃないか、何事もすんなり解決しなくてもいいんじゃないかと」

――主人公の心情と、ご自身の心情が重なりあったのですね。

「校長先生は家でロシア語の勉強に熱中しているでしょう。ぼくも家ではあんなでした。30年間、仕事のことばかり考えて、新作のためのノートを書き綴って。言ってみればモグラのように穴を掘るだけだった。それが、2012年に事務所を辞めてフリーになったからなのか、還暦を過ぎたからですかね、変わってきたんです」

――喜劇の天才は、プライベートでは眉間にしわをよせて、近寄りがたいと言いますものね。

「ぼくもそういうのに憧れたこともあるんです。でも、それは違うぞ、バカバカしいじゃないか(笑い)。作る時も楽しく作ったほうがよさそうだぞ。そしたら、たとえ舞台でシラケても、頑張って楽しく作ったんだからいいんじゃないか、と自分に言えるんじゃないかって」

――3年前に会わないでよかったです。きっと怖かったでしょうね。すみません、つい本音が…(汗)。

〈と私が言うと、一瞬、目を見開き、イッセーさんはおちゃめな感じでにこっとほほ笑む。〉

「それまで見過ごしてきたものを見てみようというのか、人物をとらえなおしてみようと考えて、日の光を求めて地面からピョコンと顔を出してみたら、世界ってこんなに広かったのか(笑い)。淡い希望も見えてきた。校長先生が迷い猫を探して、書斎から外に出てみたら、いろんな人と会う。そして広い社会を見る。たしかにリンクしてますね」

撮影■矢口和也

※女性セブン2015年10月22・29日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(Instagram/時事通信フォト)
《ゴルフ・横田真一プロと2年前に離婚》穴井夕子が明かしていた「夫婦ゲンカ中の夫への不満」と“家庭内別居”
NEWSポストセブン
二刀流かDHか、先発かリリーフか?
【大谷翔平のWBCでの“起用法”どれが正解か?】安全策なら「日本ラウンド出場せず、決勝ラウンドのみDHで出場」、WBCが「オープン戦での調整登板の代わり」になる可能性も
週刊ポスト
高市首相の発言で中国がエスカレート(時事通信フォト)
【中国軍機がレーダー照射も】高市発言で中国がエスカレート アメリカのスタンスは? 「曖昧戦略は終焉」「日米台で連携強化」の指摘も
NEWSポストセブン
テレビ復帰は困難との見方も強い国分太一(時事通信フォト)
元TOKIO・国分太一、地上波復帰は困難でもキャンプ趣味を活かしてYouTubeで復帰するシナリオも 「参戦すればキャンプYouTuberの人気の構図が一変する可能性」
週刊ポスト
世代交代へ(元横綱・大乃国)
《熾烈な相撲協会理事選》元横綱・大乃国の芝田山親方が勇退で八角理事長“一強体制”へ 2年先を見据えた次期理事長をめぐる争いも激化へ
週刊ポスト
2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン