ライフ

余命3週間の患者 最後の晩餐にお願いした料理が与える影響

ホスピス患者の「最後の晩餐」(玉井さんが食べた天ぷら)

 人生で最後の食事、あなたなら何を食べますか? 大阪の淀川キリスト教病院ホスピス・こどもホスピス病院では週に一度、患者が自身の希望する“リクエスト食”を食べることができる。

 ホスピス(緩和ケア病棟)とは末期がん患者が延命治療をせず、残された時間を穏やかに過ごすための場所。このホスピスの患者の平均在院日数は約3週間。つまりこのリクエスト食は“余命3週間”の患者の「最後の晩餐」といえる。

『人生最後のご馳走』(幻冬舎刊)には、このリクエスト食にまつわる14人のエピソードがまとめられている。著者の青山ゆみこ氏が語る。

「週に1回のリクエスト食があることで、“今度はあれが食べたい”と前向きな気分になり、生きる意欲が湧く方もいました。私がこの本で伝えたかったのは、“最期まで幸せに生ききることができる場所がある”ということです」

 すい臓がんを患って入院した玉井和代さん(74)がリクエストしたのは、天ぷらだった。

「彼女は天ぷらを食べると、楽しかった家族との暮らしを思い出すそうです。玉井さんが天ぷらを揚げると息子たちが次々に食べてしまうので、自分は台所に立ちっぱなし。でも、台所から見る家族の食卓こそが幸せだった、と彼女は感じているようでした」(青山氏)

 直腸がんの末期患者、竹内三郎さん(70)は、コロッケとスパゲティを希望。コロッケは25歳の頃に食べた、じゃが芋だけのシンプルなもの。「貧しかったこともあり、安くて旨いものが好きだった」という。

 スパゲティは、九州から大阪に出てきた20歳の頃に、勤務先の喫茶店で作り方を教えてもらった。

「甥っ子に作ってあげたところ、“美味しい! また作って”と感激されたようです。離婚を経て家庭を持たなかった竹内さんにとって、家族を感じられた瞬間が記憶に強く残っていたのかもしれません」(青山氏)

 調理をするのは一流ホテルや料亭で腕を振るった熟練の調理師。お皿はプラスチックではなく陶器にするなど、様々な工夫がなされている。

 このホスピスの成人病棟は15床ある。うち7床は広めの部屋で入院費は1日1万5000円。残りの8床は基本タイプで料金は無料だ。青山氏が語る。

「食費は1日数百円程度と安価に設定されています。このような取り組みをしているホスピスは全国にほとんどありません。今後、食事のケアが充実したホスピスがもっと増えることを願っています」

 患者の希望を叶える「最後の晩餐」は、終末期医療のあり方にヒントを与えてくれそうだ。

撮影■福森クニヒロ

※週刊ポスト2015年11月20日号

関連キーワード

トピックス

まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト
生徒のスマホ使用を注意しても……(写真提供/イメージマート)
《教員の性犯罪事件続発》過去に教員による盗撮事件あった高校で「教員への態度が明らかに変わった」 スマホ使用の注意に生徒から「先生、盗撮しないで」
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《ロマンス詐欺だけじゃない》減らない“セレブ詐欺”、ターゲットは独り身の年配男性 セレブ女性と会って“いい思い”をして5万円もらえるが…性的欲求を利用した驚くべき手口 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”とは(左/YouTubeより、右/時事通信フォト)
《芸舞妓を自宅前までつきまとって動画を回して…》京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”「防犯ブザーを携帯する人も」複数の被害報告
NEWSポストセブン
由莉は愛子さまの自然体の笑顔を引き出していた(2021年11月、東京・千代田区/宮内庁提供)
愛子さま、愛犬「由莉」との別れ 7才から連れ添った“妹のような存在は登校困難時の良きサポート役、セラピー犬として小児病棟でも活動
女性セブン
インフルエンサーのアニー・ナイト(Instagramより)
海外の20代女性インフルエンサー「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画で8600万円ゲット…ついに夢のマイホームを購入
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
『帰れマンデー presents 全国大衆食堂グランプリ 豪華2時間SP』が月曜ではなく日曜に放送される(番組公式HPより)
番組表に異変?『帰れマンデー』『どうなの会』『バス旅』…曜日をまたいで“越境放送”が相次ぐ背景 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン