でもここは超名門で、逆立ちしても私は入ることができない。その時にヤン・ガルバレクやデイヴ・リーブマンの恩師でもあるジョセフ・アラード教授が、週1回のレッスンに来ているという情報を耳にした。これはもう押しかけるしかないと、レッスン日を狙って忍び込みました(笑い)。
世界的に有名なサックス奏者を送り出した人ですが、当時はもうかなり高齢でした。結果的には別の学校だということでレッスン料を支払うことになったが、ジョセフ・アラード教授から特別レッスンを受けることができるようになったんです。
ところがレッスンは私が期待していたものではなかった。まず指摘されたのは“歯並び”。いきなり歯を削るヤスリを持ち出した時は驚きました(笑い)。その後も哲学的な話が続き、楽器を触るレッスンはしてもらえない。当時は「レッスン料返して」という気持ちでしたね(笑い)。
でもその意図は後でわかりました。テクニックは後で付いてくるというのが教授の考えで、まずは演奏するための心の在り方、真の意味での綺麗な音色を追求せよということだったのです。お陰で私なりの音色を持てるようになり、心で吹く演奏ができるようになりました。
その時に演奏テクニックだけを追求していれば、私は今でも一流アーティストのコピー演奏ばかりやっていたでしょうね。
●あさもと・ちか(サックス奏者)/1979年、アメリカでサックスに出会い、レッスンを開始。1988年に日本人初の女性プロサックス奏者としてデビュー。現在はインドネシア・バリ島を拠点に活躍中。
※週刊ポスト2015年12月11日号