ライフ

脳腫瘍の生存率が飛躍的に向上 注目の光線力学(PDT)治療

 悪性脳腫瘍の治療は、手術が第一選択だ。しかし、脳は運動や記憶、視覚といった日常生活に欠かせない機能を司る部位があるため、手術で取れる範囲は限られている。さらに腫瘍を切除しても、周囲の脳に腫瘍細胞が浸潤(しんじゅん)していることが多く、8割の患者が手術で取った周辺から再発する。周辺の腫瘍細胞を消す治療として昨年、保険承認されたのが光線力学(PDT)治療だ。

 開発を行なった東京医科大学病院脳神経外科の秋元治朗教授に話を聞いた。

「周囲に浸潤した腫瘍細胞を消す治療として、光線力学療法が何らかの効果をもたらすのではと2000年頃から研究を始めました。細胞レベルや動物実験を行ない、ステージ4の悪性脳腫瘍グリオーマでPDT治療の有効性が確認できました。そこで倫理委員会の承認のもと、臨床研究を行なったところ、素晴らしい効果が確認できました」

 悪性脳腫瘍のPDT治療は、手術に追加して実施される。手術の24時間前に、患者に光感受性物質クロリンe6を注射すると、正常細胞は通過して腫瘍細胞だけに集積する。手術で主な腫瘍を切除し、その後、クロリンe6だけに反応する微弱なレーザー光線を、切除した周囲に7~8か所照射する。腫瘍細胞内では光化学反応が起こり、活性酸素が産生され、これにより腫瘍細胞が変性・壊死する。

 このとき、クロリンe6を体内に取り込んだ腫瘍細胞は死滅するが、周囲の正常細胞は傷つかない。

 実は、がんに対するPDT治療は、2003年に早期肺がんを対象に保険承認されている。肺がんのPDT治療で使用するレーザーは100ジュール(単位)だが、悪性脳腫瘍では脳細胞を守るため、27ジュールと4分の1程度としている。

「昨年4月から、東京女子医大と協力して80例に実施しています。悪性脳腫瘍における世界標準の1年生存率が61%であるのに対し、PDT治療の1年生存率は100%です。さらに生存期間を比較すると、世界標準が14.6か月に対し、31.5か月と2倍以上というめざましい成績が出ています」(秋元教授)

 悪性脳腫瘍に対する治療の好成績を受け、再発の食道がんに対する臨床研究が行なわれ、すでに保険承認された。事前にクロリンe6を注射して内視鏡を食道に挿入し、ファイバーで全体にレーザー光線を照射する治療で、完治した症例もある。現在、子宮頸がんに対しても、臨床研究が準備されている。悪性脳腫瘍の結果を受け、先行していた肺がん分野でも、治療法として再評価されつつある。

 PDT治療に使用する光感受性物質とレーザー発生装置は、ともに日本製だ。今後、オールジャパンのPDT治療が世界の標準治療になるのでは、と期待されている。

■取材・構成/岩城レイ子

※週刊ポスト2015年12月18日号

関連記事

トピックス

”ネグレクト疑い”で逮捕された若い夫婦の裏になにが──
《2児ママと“首タトゥーの男”が育児放棄疑い》「こんなにタトゥーなんてなかった」キャバ嬢時代の元同僚が明かす北島エリカ容疑者の“意外な人物像”「男の影響なのかな…」
NEWSポストセブン
クマ対策には様々な制約も(時事通信フォト)
《クマ対策に出動しても「撃てない」自衛隊》唯一の可能性は凶暴化&大量出没した際の“超法規的措置”としての防御出動 「警察官がライフルで駆除」も始動へ
週刊ポスト
滋賀県草津市で開催された全国障害者スポーツ大会を訪れた秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
《“透け感ワンピース”は6万9300円》佳子さま着用のミントグリーンの1着に注目集まる 識者は「皇室にコーディネーターのような存在がいるかどうかは分かりません」と解説
NEWSポストセブン
天皇皇后両陛下主催の「茶会」に愛子さまと佳子さまも出席された(2025年11月4日、時事通信フォト)
《同系色で再び“仲良し”コーデ》愛子さまはピンクで優しい印象に 佳子さまはコーラルオレンジで華やかさを演出 
NEWSポストセブン
「高市外交」の舞台裏での仕掛けを紐解く(時事通信フォト)
《台湾代表との会談写真をSNSにアップ》高市早苗首相が仕掛けた中国・習近平主席のメンツを潰す“奇襲攻撃”の裏側 「台湾有事を看過するつもりはない」の姿勢を示す
週刊ポスト
クマ捕獲用の箱わなを扱う自衛隊員の様子(陸上自衛隊秋田駐屯地提供)
クマ対策で出動も「発砲できない」自衛隊 法的制約のほか「訓練していない」「装備がない」という実情 遭遇したら「クマ撃退スプレーか伏せてかわすくらい」
週刊ポスト
真美子さんのバッグに付けられていたマスコットが話題に(左・中央/時事通信フォト、右・Instagramより)
《大谷翔平の隣で真美子さんが“推し活”か》バッグにぶら下がっていたのは「BTS・Vの大きなぬいぐるみ」か…夫は「3か月前にツーショット」
NEWSポストセブン
文京区湯島のマッサージ店で12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕された(左・HPより)
《本物の“カサイ”学ばせます》12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕、湯島・違法マッサージ店の“実態”「(客は)40、50代くらいが多かった」「床にマットレス直置き」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《いきなりテキーラ》サンタコスにバニーガール…イケイケ“港区女子”Nikiが直近で明かしていた恋愛観「成果が伴っている人がいい」【ドジャース・山本由伸と交際継続か】
NEWSポストセブン
Mrs. GREEN APPLEのギター・若井滉斗とNiziUのNINAが熱愛関係であることが報じられた(Xより/時事通信フォト)
《ミセス事務所がグラドルとの二股を否定》NiziU・NINAがミセス・若井の高級マンションへ“足取り軽く”消えた夜の一部始終、各社取材班が集結した裏に「関係者らのNINAへの心配」
NEWSポストセブン
山本由伸(右)の隣を歩く"新恋人”のNiki(TikTokより)
《チラ映り》ドジャース・山本由伸は“大親友”の元カレ…Niki「実直な男性に惹かれるように」直近で起きていた恋愛観の変化【交際継続か】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 内部証言で判明した高市vs習近平「台湾有事」攻防ほか
「週刊ポスト」本日発売! 内部証言で判明した高市vs習近平「台湾有事」攻防ほか
NEWSポストセブン