その典型例がまもなく放送される『赤めだか』。ここでたけしは、主人公の立川談春(二宮和也)が入門する立川談志を演じている。ただでさえ、実在の人物を演じるのは大変だと言われる上に、談志といえば独自の落語世界を作り上げた天才肌。視聴者にも鮮烈な記憶を遺す存在である。半端な俳優が演じたら、「似てない」と即座に目を三角にされるところだ。
しかし、その談志をたけしが演じ「バカ野郎!」と声を出すのを聞いてみると、なぜか「まあ、これもアリか」と思えてくるのである。談志に似ているのかと言われれば、全然似てないし、たけしはたけしのまま。思えば、これまでたけしが演じてきた実在人物も本人役を除けば、ひとりも似ていなかった。それでも引っ張られてしまうのは、「ビートたけしがこの役をやったらどうなるか」という興味を起こさせる存在だからだ。
市川崑督も大島渚監督も、みんな「この実在人物をやってるたけし」を見てみたかった。その意味で、ビートたけしは、特異な俳優といっていい。