『警視庁ゼロ係』の撮影現場での小泉孝太郎
小泉に意識改革が起きたのは30歳を過ぎてからだった。彼は、食事から台本の覚え方に至るまで、「万全の準備」を徹底するようになる。20代の頃は、食べれば元気が出るとばかりに毎食腹にたっぷり詰め込んで現場に出ていたが、キーとなる役を演じるようになって、考え方を改めた。
「もっと自分の中の感覚を研ぎ澄まさなければダメだな、と思ったんです。それには普段の生活では使わないスイッチを入れないと無理だと気づいた。だから常に空腹な状態で現場に挑もう、と。そのほうが、五感が敏感になるんです」
ストイックさは、体型にも表われた。みるみる痩せていく小泉に、マネージャーからは「そこまでしなくてもいいんじゃないか」という忠告もあった。しかし小泉は聞き入れない。「満腹だとハングリー精神もなくなってしまって、張り詰めているものが緩んでしまう」と、頑なに“腹五分目以下”を続けている。
役作りに関しても、小泉のポリシーは変わらない。
「下町の時も、今回の『警視庁ゼロ係』もそうですが、撮影初日の前夜は一睡もできません。Aパターン、Bパターン……と、表現の方法を7~8パターン用意します。ひとつしか準備しないと、監督に求められたものと違った時に対応できませんから。そうやって考えていると朝になってしまい、そのまま現場に向かうことになります」
小泉は自身の役作りを、「人生で出会ってきた人と照らし合わせてキャラクターを固めていく」タイプだという。喋り方、リズム、表情……。
「嫌な出会いにも感謝しないと。『下町』の時は、実際に会ったある起業家を参考にしました。その方の笑顔って本当に苦手だったんです。笑顔なのに目が笑っていないし、常に人を見下している。でも、その人との出会いが役作りにも生きたわけですから」