国内

『下流老人』著者「年金生活者に3万円は一過性の選挙対策」

日本人の9割が下流老人予備軍となる Reuters/AFLO

 長年、生活困窮者の支援に携わるNPO法人ほっとプラスの代表理事、藤田孝典氏が昨年上梓した『下流老人』(朝日新書)は大きな話題となった。しかし高齢者の貧困対策はまったく進んでいないという。

  * * *
 日本人に痛税感が強いのは、どんなに税金や保険料を払っても「国は何もしてくれない」という思いがあるからです。もはやこの国の社会保障は崩壊しています。年金も医療も高度成長を前提とした古い制度のままで、社会保障費は膨れ上がっていると言われますが、必要な人には何も届いていません。

 本来やるべき社会保障の抜本改革をせず、教育、住宅、介護、保育、これらすべてを市場原理に任せた結果、全部が「商品」になってしまいました。金がないと暮らせない仕組みになっても、政府は放置し続けたのです。

 拙著『下流老人』のタイトルが話題になりましたし、高齢者に限らず子供の貧困や母子家庭の貧困がクローズアップされています。2016年度予算では政府も貧困対策を盛り込むことでしょう。しかし予算をどうやってつけて、それをどのように恒久的な貧困対策に結びつけるかについてはまだまだ議論が深まっておらず“そのきざしがある”程度です。

 政府が高齢者の貧困対策をどう進めて行くのかは、当事者である高齢者が今の政治をどう判断するかです。それを意識してか、安倍政権は低所得の年金受給者に対して3万円を配ることを発表しています。でも、貧困対策ではなく、一過性の“選挙対策”で終わってしまって社会が変わらなければ、問題は解決しません。このままなら僕らの世代の老後は社会保障の給付がなければ暮らせないのは明らかですから、全有権者の問題でもあります。

 具体的に社会を変えるのは政治ですが、どういう社会を選ぶかというのは国民次第。「生きづらい」と感じたら声をあげていくしかないのです。
 
【PROFILE】1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学人間福祉学部客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。ソーシャルワーカーとして現場で活動する傍ら、生活困窮者支援の在り方を問う。昨年発売された『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書)がベストセラーに。

※SAPIO2016年2月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン