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常連客が「母」と慕う女将が仕切る東京・小石川の角打ち

常連客が「ちょうどいい狭さ」と評する角打ちスペース

『寺内酒店』は、播磨坂、小石川植物園といった桜の名所にほど近い吹上坂の途中にある。

 やがてそれらの名所は坂下で合流するのだが、この店の常連客は、「花より角打ち」とばかり、桜咲く春のおぼろの中を、迷うことなくこの店に通って来る。桜の名所より、角打ちの名所というわけだ。

「春の播磨坂の桜並木はそれはそれはきれいだけど、その下での宴会は禁止。植物園も夕方には閉まってしまいますからね」(50代、印刷業)

 しかし、桜の季節だけでなく年中酒飲みが集う同店。支持される理由はそれだけではないようだ。

「優しくて、いてくれるだけでほっとするお母さん(寺内光子さん)と、もの静かだけどいい味の4代目(崇さん・51歳)がいるこの場所だからこそ飲みたいんですよ。初めて言いますけど、お母さんは私にとって、“小石川の母”といえる存在なんです」(同前氏)

「この若旦那が中学生の時からの馴染みだから、37年になるのかな。4代目、立派になりましたよ。それにやっぱり女将さんの存在が大きい。角打ちだけでも十分なのに、バーベキューパーティとかハイキングを企画して、お客さんをいろんな面から楽しませてくれる、家庭的で素敵なハートの持ち主なんです。言ってみれば私らのマドンナ、会いに来ずにはいられません」(60代、サラリーマンOB)

「吹上坂に寺内母子あり」と、だれもが絶賛し、その魅力にはまっているようだ。一方、当の女将さんは、何を言ってるんだかという顔で、常連客のそんな話を聞き流す。

「私はみんなと話をしながら過ごせるのが楽しいだけなのよ。小さい店だし、食べ物だって、缶詰と乾き物しかないですからねえ。恥ずかしいくらいに思っているけど、それでも皆さんにこうやって来てもらえるのは、とってもうれしいです」

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