──テレビ版でカットしたシーンでも、映画版ならいいだろうと入れることもあるのですか。
「そういう線引きは一切ない」
何をも恐れない男、のように映る。この確信はどこからくるのか。
「人の道から外れてませんもんね、表現の内容は。それは明確に言える」
メディアが尻込みするという意味では、ヤクザは現在、究極のテーマと言っていいかもしれない。
「土方宏史ディレクターが『暴力団をドキュメントしてみたい』と言ったとき、我々はどこに依拠すればいいんだと逡巡した。戸塚さんならば、人が亡くなったりもしましたけど更生した子どももいた、だから教育者だと言えるし、安田さんだってバッシングはされましたけど、彼は弁護士だって言える。
ホームレス理事長も、今年は13人も卒業生を出した、彼は教育者ですと言える。でも、ヤクザは、それでもヤクザです、って言っても話にならない。彼らは悪事を働いて暮らしているわけですから、彼らの存在を肯定することはできない。ただ、最後の最後、『それでも人間ですか』って聞かれたら『人間です』って答えられるかどうか。それが試される作品なのではないかと思ったんです」
取材対象を選ぶ際は、山口組の傘下団体などにもルートを手繰って取材を申し込んだが、全国組織の場合、当事者の了解を得ても、トップの判断を仰がなければならない。そこで阿武野は、「一本独鈷」と呼ばれる独立系組織で、大阪府堺市に根を張る指定暴力団「二代目東組二代目清勇会」にたどり着く。
「川口(和秀)会長が『死刑弁護人』を観てくれていたようで、あれを作ったスタッフなら間違いないやろ、と。つまり、一本の作品が名刺の裏書きの役割を果たしてくれたんです」(文中敬称略)
■あぶのかつひこ/1959年生まれ。同志社大学文学部卒。1981年東海テレビ入社。アナウンサーを経てドキュメンタリー制作。主なディレクター作品『村と戦争』『約束~日本一のダムが奪うもの~』、プロデュース作品に『光と影?光市母子殺害事件 弁護団の300日~』『ホームレス理事長 退学球児再生計画』など。日本記者クラブ賞(2009)、芸術選奨文部科学大臣賞(2012)を受賞。
※SAPIO2016年4月号