得意気に原稿を持ち帰った鎭子の鼻を、花森はへし折る。

「当時、元皇族の原稿が取れただけで万々歳なのに、花森さんは“面白くない、書き直してもらいなさい”と突き返したそうです。花森さんもすごいですが、成子さんに書き直しをお願いした鎭子さんもよくやったと思います」(同前)

 書き直された原稿には、元皇族も国民と同じく焼けた住宅を修理して住み、配給の芋を食べ、庭の野草を摘んでいる様子が綴られた。

 その手記は「やりくりの記」として『暮しの手帖』第5号に掲載された。この号は大スクープとして話題となり、完売。『暮しの手帖』は一躍国民的婦人誌へと成長を遂げた。その花森の厳しさが鎭子を編集者として成長させたという。

 あるとき、花森は撮影をするために赤い座布団を探させた。しかも、普通の赤ではなく、赤に藍色がさした珍しい赤だった。だが、当時はまだ白黒のページだけで、本来であれば何色でもいいはず。

「花森さんは鎭子さんに“これからはカラーの時代が来る。そのときに編集者が色の感覚を持っていなかったらどうするんだ”と言って、見つかるまで探させたそうです」(鎭子を知る出版関係者)

※週刊ポスト2016年4月15日号

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