ライフ

「江戸しぐさ」というオワコンが教科書に残されている件

こういう「かさかしげ」は嬉しいのだが

 小学校で使用される道徳の教科書『私たちの道徳』で、全く歴史的根拠がないとされている「江戸しぐさ」が依然として取り扱われることになった。コラムニスト・オバタカズユキ氏が怒る。

 * * *
 4月である。新学期である。児童や生徒や学生たちは、来週あたりから新しい教科書を携えて新しい学年の学びを始める。

 ところが、だ。新小学校5、6年生用の教科書の一部が、とてもバカらしいことになってしまった。文部科学省が作った『私たちの道徳』に、「江戸しぐさ」を推奨するページがこれまで同様残されているのだ。

 なにそれ「江戸しぐさ」という場合は、検索して自分で調べてほしいが、要するに歴史的捏造の一つである。偽史や偽書の研究家である原田実氏が、2014年の夏に出した『江戸しぐさの正体――教育をむしばむ偽りの伝統』で徹底批判。翌2015年の夏には、とんでもないインチキな内容の本を批判的に楽しむ民間団体の「と学会」が、『私たちの道徳』を第23回トンデモ本大賞に選んで国民的冷笑を誘った。

 かつては「江戸しぐさ」を日本人の美徳として扱う本がたくさん出ていたが、原田氏をはじめとする批判の声の高まりで、今ではもう、そんな出版企画はどの出版社でも通らない。新聞、テレビでも「江戸しぐさ」を真顔で勧める者は見かけなくなっている。

 なのに、である。そうした終わっているコンテンツを、日本の教育界の中枢である文科省が道徳教材の中で認定してしまったというわけだ。

 文科省の言い分は、道徳の時間は社会科の授業とは違うもので、事実かどうかではなく、道徳的な内容かどうかだ、としているようである。『私たちの道徳』は、〈三百年もの長い間、平和が続いた江戸時代に、江戸しぐさは生まれました〉と紹介しているから、「ウソも方便」という知恵を児童らに教えたいならともかく、まあ、なんというか、自分の過ちを認められない頑迷ぶりを露呈して、恥ずかしい話になっているのだ。

 この文科省の愚行によって、全国の小学高学年児童たちは偽史を学校で教えられてしまうことになる。だが、児童への被害は実際ほとんどないと思う。インチキな日本人の美徳を押しつけられて大丈夫か、といった心配をする人も多いのだけれど、大丈夫、子供は大人のウソを見抜く天才だ。特に、きれい事を言うだけの大人を子供たちは信用しない。

 むしろ、気の毒だなあと思うのは、インチキ教科書で偽史を扱いざるをえない教師たちだ。「ここに書いてあることは、実を言うと嘘八百なのです!」とお笑いネタにして子供たちからの人気を獲得するのに使える教材、ともいえるのだが、現実的にそうした授業を行える教師は滅多にいない。

 ご承知の通り、小学生の道徳の時間は、2018年度から教科になる。いまはその過渡期であり、教科化の正式実現に向けて、ちゃんと学習指導要領通りに教えているかどうか、教師たちは上から見張られている。そのへんの締めつけは年々厳しくなっており、教師の自由裁量の幅は決して広くない。

 そして、授業以外の膨大な雑用で多忙を極めているのが小学校教師の平均像だから、「江戸しぐさ」程度でいちいち反抗的態度を示していては、心身共に健康を保てない。子供たちにインチキを教えたくない先生は、該当ページをどう華麗にスルーするか、その力量が問われるといったところが現実だろう。知的で真面目な先生ほど虚しくなるはずだ。

関連記事

トピックス

初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン