五十代でおよそ半数が発症するという白内障は、万が一悪化しても、“日帰り”手術で“簡単”に“すぐ治る”──。そう気楽に考えている人も多いだろう。しかし、手術後、いつまでも違和感が拭えずにいる人も実は少なくない。著書『後妻白書 幸せをさがす女たち』が話題のノンフィクション作家・工藤美代子さんもその一人。三月に両眼を手術したばかりの工藤さんが、自らの体験を綴った。(第一回、全三回)
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◆視力が落ちてゴキブリのような黒い塊が視界を横切り始めた◆
世間では「白内障の手術なんて簡単よ」と言う人が圧倒的に多い。私の知人で手術をした女性たちは異口同音に「あっという間に終わった。だって日帰りだし、別に痛くもないし」と口を揃える。ふむ、そんなものか。それなら眼科に行ってみようと決心したのが二月の末だった。
実は『後妻白書』という連載を『女性セブン』に書いていた頃、毎週のように後妻さんに取材でお会いしていた。その中の一人だった桃子さんが、ある日、決然とした表情で断言した。
「これだけ医学が進歩したんですもの、人間は古くなった身体のパーツを取り替えて生きていけばいいのよ」
なるほど、六十歳を過ぎてから二十歳も年上の人の後妻になった女性は言うことが違う。私にはまったくなかった発想だった。
「そうねえ、パーツのチェンジもいいけど、古いパーツのメンテも重要よ」と思慮深そうに意見を述べたのは、同席していた真由美さんだ。
真由美さんは常識を代表するような人で、考えてみれば、お見合いで結婚した旦那さんともう四十五年も一緒に暮らしている。夫もしっかりメンテしているが、桃子さんは新しい夫を入手した。人生のパーツを取り替えたのと同じか。
この時期、私は視力がどんどん落ちていた。日中でも薄暗く感じて眼が常にかすむ。さらに飛蚊症もひどくて、以前は文字通り蚊が何匹か飛ぶのが見えたが、今はゴキブリのような黒い塊がしょっちゅう視界を横切る。あまり気分の良いものではない。誰に話しても「それは白内障でしょ」と言われ、手術を勧められた。
そもそも白内障とは、加齢とともに眼の中の水晶体が白く濁り、視力が落ちる病気だ。昔は「白そこひ」と呼ばれて、外目にも瞳が白く濁っているのがわかる老人がいた。今はあまり見掛けなくなったのは、さっさと手術をするからだろう。古くなって機能を果たさなくなった水晶体を超音波で砕いて、吸引する。その後に折りたたんだレンズを挿入すると自然に開くらしい。
私の生活はパソコンに向かって原稿やメールを書いたりする時間が長い。これ以上、パソコンの画面がまぶしくて、しかもかすんで、しょっちゅうゴキブリが通り過ぎるとなると、とても仕事にはならない。
よし、白内障を退治してやるぞと、決意のほどを語ったら、知人が「ほんとに優しくて腕のいい先生がいる。術後の心配なんて何もない」と折り紙つきの著名なクリニックを知らせてくれたので、そこを訪ねた。