視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚という五感が何らかの理由でつながって感じられ、例えば目で見た物に香りを感じたり、音を聞いてそれに色彩がついて見えたり、“視覚と嗅覚”、あるいは“聴覚と視覚”といった組み合わせで、ある感覚が別の五感と共に感じられる人のことを“共感覚者”という。
『日本共感覚研究会』を立ち上げ、独自に共感覚の研究や、共感覚に関する悩みや質問に答えている岩崎純一さん(33才)は、コーヒーは濃い青に見え、群青色の雲がコーヒーカップの上を、ゆらゆらと漂って見えるというのだ。
東京大学大学院教授で心理学を教える、日本における共感覚研究の第一人者の横澤一彦さんのもとには、共感覚者の子供を持つ親から、“わが子は天才かもしれないから調べてほしい”という申し出があるという。そもそも、共感覚者は10万人に1人といった説もあり、「芸術家や天才に多い」とされていた。だが、横澤さんが研究のため共感覚者を募ったところ80人もの人が協力してくれ、「おそらくその割合は、100人中1人程度だと推定されます」とのこと。
天才かどうかを調べるにしても、「共感覚者であることは、特別いいこともなければ悪いこともないのではないか」と横澤さんは言う。
なぜなら、「数字に色がついて年号が覚えやすいとしても、例えば5と8が同じ色に見える人の場合は、358か、355かわからなくなってしまうことだってあります。そういう点を考えると、日常生活でのメリットデメリットはプラスマイナスゼロだといえるから」(横澤さん)だ。
一方、前出の岩崎さんが運営する共感覚のサイトには、「小学生の息子が、“この算数の問題はショートケーキの味がする”と言うんですが、私はこれからこの子をどう育てていけばいいのかわからない」といった悩み相談が寄せられることもあるという。
そんなとき、岩崎さんは「病気だと構えないで、もしかしたら生かせる道があるかもしれないと肯定的に考えてほしい」と答えるのだという。
「だって、“このケーキの味がする時は、答えが正解の時だ”なんてことになれば、共感覚は役立つかもしれませんから」(岩崎さん。以下「」内同)
岩崎さんは共感覚があることで、幼少時代から苦労もしてきた。
「私は周りと違うことで、相当いじめられました。共感覚という言葉を知らなくても、両親が私を否定せずに認めてくれたから、なんとか生きてこられたと思っています」
岩崎さんは、今では「どうして私には物や音に色がついて見えてしまうんだろう」と原因を考えるのではなく、そんな色鮮やかな世界を純粋に楽しむようになったという。岩崎さんの目下の趣味は、日本庭園を眺めること。
「絶妙な調和の色とりどりの風景なんです。見事としか言いようがありません」
それは私にしか感じられない世界ですが、と岩崎さんはそう話しながら目を細めた。
※女性セブン2016年5月5日号