途中から話がやたら具体的になっているとお感じのはずだが、上記2段落の内容は、脚本家・山田太一の代表作『岸辺のアルバム』の概略だ。お父さんは商社の仕事で本当に忙しい。その忙しさが、結果的に、家族の気持ちをバラバラにさせていく。修復不能なくらい互いの気持ちが分らなくなって、家族全員が孤独に苦しむ。
今観ても、ずしーんとくる重い連続ドラマだ。だが、『岸辺のアルバム』が放映されたのは1977年の6月末から9月末まで。もう40年も前の作品なのである。なのに、登場人物の辛さがずんずん伝わって来るから怖い。お父さんの基本構造は、まだまだ変わっていないのだ。
思い切って購入した多摩川沿いの小さな一戸建てが、大洪水でまるごと押し流されようというラスト、お父さんはすがるように言う。「働いて残したのは、あの家だけだ。あとは滅茶苦茶だ。滅茶苦茶じゃないか」。仕事を言い訳に家族と向き合ってこなかったツケなのだ。だけど、お父さんの絶望があまりに切ない。私は、先日、DVDをそれこそ仕事で全巻観たのだが、最後は号泣してしまった。
改めるべきは、今のお父さんたちにも多々ある。でも、父の日くらいご苦労さんだ。今年の私は、内臓が弱って酒が飲めなくなった実父に、長寿梅と呼ばれている盆栽を贈った。自分の家庭のほうは、せめて妻子の弁当づくり担当日を増やすつもりだ。