「このところの日本映画って、主人公が事象にいろいろと振り回されて、その中でどうなるかっていう話が多いですよね。でも『64』は振り回されつつ、そこから攻めるんですよ。だから、久々に能動的に攻める芝居ができた。新聞記者役の瑛太がガッと攻めてくる。その攻めを僕が受ける。そして、受けた後に攻めるんですよ。
受けているばかりだった最近の自分の役とは違っていた。だから、作品の空気感だけでなく芝居も昭和っぽくなっているんだと思います。
『64』前編は東宝の宣伝部が『満足度95%』『後編も観たい人97%』と謳っているわけだけど。逆を言うとですよ、5%の人が面白くなかった、3%の人は後編を観たいと思わない。映画ってそういうことなんです。良し悪しはあるかもしれないけど、基本的には好き嫌いがあって、万人が評価するということはありえない。
表現って結局は嗜好なんですよ。嗜好である以上は、僕らも『誰かに向かって芝居する』という時に『みんなに向かって』ではなくて、芝居のあり方も嗜好であっていい。
役者として最後に守れる砦は『拒絶』です。『すみません、できません』、それが役者に残された唯一の言葉だと思っています。パーソナルな心象的な場面では『こうはならないな』と思ったら、『別のやりかたでやらせてもらえませんか』という言葉を、役者は持ってないといけない」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』(文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』『市川崑と「犬神家の一族」』(ともに新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年7月1日号