殺人において、女性の加害者は全体の2割ほど。カッとなって犯行に及ぶ男性に比べて、女性の殺人事件のほとんどが追い詰められた末の犯行だという。犯罪心理に詳しい新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科の碓井真史教授が説明する。
「保険金殺人は別として、苦しみ抜いて夫を殺すぐらいなら離婚すればいい、と考える人も多いかもしれませんが、それはある程度強い女性です。家庭はうまくいくと、心が癒されて楽しい場所になりますが、そうじゃないと牢獄だと感じる人もいる。身体的な暴力以外にも、自由を奪われたり、侮辱されるといった心の暴力は、外からは見えにくい。そういった精神的な呪縛があると、目の前の脅威を取り除かなければ自由になれないと思いこんでしまう」
女性が一度殺意を抱くと、毒殺を選ぶ人は非常に多いという。過去の新聞をめくると、確かに妻による夫の毒殺(未遂)事件は少なくなかった。
例えば2015年11月、栃木県・宇都宮で、自衛官の夫(34才)の殺害容疑で逮捕された無職の妻(33才)。彼女は別居中の夫の自宅を訪れた際、台所にあった焼酎パック内に、インド、東アフリカ原産の花木「トウゴマ」から抽出した猛毒リシン入りの水溶液を混入させ殺害しようとした疑いがかけられている。
事件が発覚したのは、その3か月前の2015年9月に、偽名で殺鼠剤を購入したことがきっかけだった。夫に話を聞いたところ、妻との間にトラブルがあり2015年3月に別居となったが、2015年8月に、自宅の焼酎を飲んで体調が悪化したことが判明。警察が夫の自宅を調べると、猛毒入りの焼酎を発見したのだった。
「包丁で刺す、棒で殴るといった行為は、相手に反撃される可能性のほうが高いですから、なるべく相手に近づかずに殺せる方法を考えた場合に最適なんです。女性は日常生活で食事を作る、お茶を出すといったことが多く、毒を混入させるチャンスもある。殺人は割に合わないけれど、仮に自殺に見せかけられたら、夫に先立たれた妻ということで同情もされる…という発想になる。冷静な判断は失っていますよね」(碓井氏)
※女性セブン2016年6月30日号