某テレビ局一社から取材依頼があったが、録画放送が条件だった。しかし戸塚の仕事の事情で収録時間に間に合わず、生放送になった。
「好き放題に話した。そうしたら後でディレクターは上の人にだいぶ怒られたみたいだね。録画でコメントとって、その反対意見をスタジオで展開するつもりだったんでしょう」
桜宮高校バスケ部事件でも、戸塚の目は、まずは子どもの本質に向かう。
「あの事件は、どうしてそんなことで死ぬような子どもに育てたんだというところから始めないといけない。でないと、ああいう問題はなくならんでしょう。自殺は周りの人を脅していることと同じ。復讐ですよ」
戸塚に言わせれば、体罰と暴力は明確に異なる。
「体罰は相手を進歩させようとする行為でね、本能的にやるんよ。本能は善。今の時代は、本能を悪にしとるからおかしくなってる。教育の底にあるのはラショナリズム(理性主義)よ。大和魂じゃなく、ヨーロッパの精神論よ」
取材中、何度も「ラショナリズム」という言葉が口をついた。戸塚が言わんとすることはこうだ。戦後日本に根付いた欧米型教育は、何より自由、平等、人権を尊ぶ。だが、まだ規範も身についていない子どもたちにそれらを与えても理性など育たない。理性は与えられるものではない。本能を呼び覚ませば、自ずと作られる。
そう説明した上で戸塚は続けた。
「だからこそ体罰は感情的にやらんといかん。理性で叱ったら冷たいやろう。感情がこもっとりゃ温かいから、叱られた方もこちらの気持ちを受け止める。反発ならなおいい。それは怒りだからね。怒りは進歩のエネルギーになる」
体罰にもテクニックがある。心の中で「進歩だ、進歩だ」と唱えて拳を上げると、力の加減や痛みを加える部分を自然と判断できるようになるという。
「傷つけるのが目的じゃないからさ。体罰の下手なやつは、恐怖でやっとる。『俺の言うこと聞かなかった』という恐怖なんよ。俺をバカにしとると。そうすると、相手も恐怖で返してくる。でも怒りで行くと、向こうも怒りを発生させる。それが進歩につながる」
■戸塚宏/戸塚ヨットスクール校長。1940年生まれ。名古屋大学工学部卒。1975年、沖縄海洋博記念「サンフランシスコ─沖縄単独横断ヨットレース」優勝。1976年、愛知県美浜町に戸塚ヨットスクールを開校。
※SAPIO2016年8月号