事件も発生した。2年前、軍事演習に参加中の米海兵隊によって性転換者のフィリピン人男性が殺害された。米兵には禁固6~12年の有罪判決が下されたが、米政府はVFAを盾に刑務所収監を拒否し、身柄はフィリピン国軍の特別施設に置かれた。
2005年にフィリピン人女性が、軍事演習に参加中の米兵にレイプされた事件では、一審で終身刑判決を受けたにもかかわらず、米兵の身柄は米大使館敷地内に置かれ続けた。その後は示談が成立し、「被害女性が圧力を掛けられたのではないか」といった憶測が比国内で広まった。そして米兵は逆転無罪判決を受けた。両国間の協定は、ホスト国のフィリピンに不利に働いている。それが住民たちに共通する認識だ。
オバマ大統領が来比した2014年4月、米軍プレゼンスの拡大を盛り込んだ比米防衛協力強化協定(EDCA)が署名され、米軍による国軍基地の利用拡大、軍事施設の建設が可能となった。これに反発した元上院議員らは違憲認定を求めて提訴したが、最高裁は今年1月、EDCAを合憲とする判決を下した。この結果を受けて比国内では「米軍基地の再来か」といった懸念の声も上がった。
【PROFILE】水谷竹秀●1975年三重県桑名市生まれ。上智大学外国語学部卒業。現在フィリピンを拠点にノンフィクションライターとして活動中。2011年『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』で開高健賞受賞。近著に『脱出老人 フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち』。
※SAPIO2016年8月号