◆消えた「児玉ルート」

 オイルショックによる物価上昇や金脈政治批判を受け、田中内閣が総辞職に追い込まれてから1年2か月後の1976年2月5日。前日の米議会公聴会を受けて、朝日新聞が朝刊2面に、

〈ロッキード社 丸紅・児玉氏への資金〉

 との見出しで、小さな記事を掲載した。この400字にも満たない記事が、政財界を揺るがす事件に発展するとは、平野氏も予想していなかったという。

「見出しに名前の挙がっていた児玉誉士夫氏は、右翼の大物で政界のフィクサーとして名が知られていた人物。しかも、当時幹事長だった中曽根康弘氏の元書生が児玉氏の秘書を務めるなど、自民党中枢との関係が深いことは知られていた。疑惑が広がれば政権与党を直撃すると感じた一方、記事は淡々としたトーンで、児玉氏の名前を挙げていたのも朝日一紙だけだったので、そこまで大騒ぎになるとは思っていなかった」

 だが、平野氏の予想に反して各紙は連日、大きく疑惑を取り上げるようになり、通常国会は紛糾。衆院予算委員会では全日空、丸紅の幹部、角栄氏の「刎頸(ふんけい)の友」であり、米議会で工作資金が渡った先として名前の挙がった国際興業グループ創始者・小佐野賢治氏らが証人喚問の場に立った。

「朝日の見出しにあった通り、ロッキード社からの工作資金の流れには主に2つのルートがあった。

 ひとつは児玉氏を通じて防衛庁に次期対潜戒機P3Cを売り込むルート。もうひとつは丸紅を通じて全日空に大型航空機トライスターを売り込むルートだった。政界への波及でいえば、第1の『児玉ルート』は元防衛庁長官で当時幹事長だった中曽根氏につながり、第2の『丸紅ルート』は小佐野氏を通じて田中さんにつながるものだった。

 当時、ロッキード社が流した対日工作資金約30億円(1000万ドル、当時のレートで円換算)のうち約21億円は児玉氏に秘密コンサルタント料として渡ったとされていた。にもかかわらず“本線”であるはずの児玉ルートは、事件発覚後すぐに、事実上、捜査の対象外になってしまった」(平野氏)

 その理由は、児玉氏が脳塞の後遺症のために重度の意識障害を起こし、国会の証人喚問に応じることができないことだった。

 結果、東京地検の捜査対象は丸紅ルートに集中し、「角栄逮捕」の流れにつながっていく。

「なぜ児玉氏の証人喚問が不可能だったか。実は証人喚問の直前、児玉氏の証言を不可能にする作為がはたらいていた可能性が高い」

 平野氏はそういって、驚くべき証言を続けた。(後編に続く)

※週刊ポスト2016年8月12日号

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