国内

知識社会の「格差」が生む 言ってはいけない「日本の内戦」

知識社会の「格差」が対立を生む

 今、日本では多くの場面で「対立」の構造が顕在化している。世代間対立、正規・非正規の対立、経済的な格差……。『言ってはいけない』(新潮新書)が大ヒット中の作家・橘玲氏が、そうした「内戦」の背景にあるものをあぶり出す。

 * * *
 世界じゅうで経済格差が大きな社会問題になっている。日本も例外ではなく、かつては一億総中流だったのが、いまでは若者や子どもの貧困、老後破産の記事を見ない日はないほどだ。

 なぜ日本の中流社会は崩壊してしまったのだろうか。

 あまり指摘されないが、もっとも大きいのは高齢化の進展だ。若いときはみんな同じように貧しいが、年をとるにつれて人生の浮き沈みがあり、定年を迎える頃には資産に大きな「格差」が生じているだろう。これは一種の自然現象で、社会全体が高齢化するほど中流は少なくなっていく。

 もうひとつの大きな理由は、欧米や日本のような先進国の経済が製造業から知識産業へと移行したことだ。

 戦後の高度成長期は、工場で真面目に働けば、住宅ローンでマイホームを買い、家族を養うことができた。だがグローバル経済では、そうした産業は人件費の安い中国などの新興国に移ってしまい、先進国の労働者は新しい仕事を探さなくてはならない。

 このことに最初に気づいたのはアメリカのクリントン政権で労働長官を務めたロバート・ライシュで、いまから20年以上前に、21世紀のアメリカ人はスペシャリスト(知識労働)とマックジョブ(単純労働)に二極化すると予言した。

 ライシュはアメリカの中流層がマックジョブへと転落していく未来を危惧したが、リベラリストとして移民排斥や自由貿易批判をとなえることはなかった。その代わり、中流層が知識社会に適応できるよう、教育にちからを入れなければならないと力説した。

 だがトランプ現象で白人中流層の崩壊が明らかになったように、ライシュの理想が実現することはなかった。その理由はアメリカ政府の教育政策が失敗したというよりも、知識社会で成功できるのが限られたひとだけだからだ。

 この不都合な事実は、「教育、教育、教育」を政策目標に掲げて颯爽と登場したイギリスのブレア政権でも証明された。どれほど教育に予算を注ぎ込んでも、若者の失業率はまったく改善しなかったのだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン