「僕は千住の生まれで五社さんは浅草。同じベランメエ喋りで当初から親しみを覚えました。互いの距離感が近いんです。
まだ脚本のできていない段階から、五社さんには『牙狼之介』というのを一緒にやろうとお話をいただきました。ただそのためには立ち回りができないとだめですからね。歩き方、刀の持ち方、着物の着方、全て身につけなくちゃしょうがない。
そこで五社さんにお願いして、河田町にあったフジテレビの屋上で空いた時間に稽古をつけてもらうことになったんです。五社さんは他の作品を下で撮られていたので、絡みの人たちに空いた時間に来ていただいて、付き合っていただきました。
五社さんは殺陣で鉄身を使います。刃引きはしてありますが重量は真剣と同じで。それを差してフジテレビの屋上を行ったり来たりしたり、殺陣師の人に教わって素振りをしたり。『腰を出して』とか丁寧に全て指導をしてくれたお陰で、あとになって時代劇をやる時も腰が嫌でも落ちるようになりました」
「それから五社さんは『刀は本当に当てろ。当てないと嘘になるからな』と指示してくる。でも東映京都には、お腹すれすれで斬ったように見せる流儀がありました。当てるにしても、腹帯を巻いているところに当ててケガしないようにするんです。でもそういう流儀を無視してやったものですから、絡みの人には怪我をさせてしまいました」
迫力あるアクションの演出のため役者を追い詰め、それにより役者をステップアップさせる──。これぞ、名監督である。
※週刊ポスト2016年8月19・26日号