スポーツ

夏の甲子園 観客がタオルをぐるぐる回すことの是非

甲子園観客のマナー

 今年の夏の甲子園が今日で終わる。だがオリンピックもそうであるように、アマチュアスポーツの魅力は勝利だけにあるのではない。現地で取材を続けているフリー・ライターの神田憲行氏が甲子園で目撃したフェアプレーをお届けする。

 * * *
 大会前にネットで評判を呼んだのが、島根代表・出雲の林将大捕手の行動だ。島根大会で優勝を決めた瞬間、マウンドに集まるチームメイトの歓喜の輪を加わらず、グラウンドに放置されたバットを拾って相手ベンチに届けた行動が動画で広まり、「冷静」「紳士的」と絶賛された。

「バット引きはいつもやってることなんで、ちゃんと最後までやってだけです」

 と、林選手は私の取材に照れた。「バット引き」とは、相手打者が打って投げ捨てたバットをグラウンドから引いて渡すことを指す。いろんな人から褒められたそうだが、

「監督と部長先生には褒められていません!」

 と笑いながら、わざと大きな声でアピールした。部長がいちばん喜びそうなのに、と不思議に思って同校の藤井勝洋部長に訊ねると、自分の浅さを思い知らされた。

「うーん、そういうことって褒めることなんでしょうかね? 褒めると次もやれって、こちらから指示したことになってしまう感じがするんです。彼が取った行動は素晴らしいものです。ですが、監督や部長から言われてするものではないでしょう」

 出雲は大会初日に智弁学園に敗れた。試合後、インタビュールームで目元を赤く染めながら取材に答える林選手の姿があった。私もその輪に加わって話を聞いていると、突然林選手が「あ、すいません、座っているのは僕だけですね」と腰掛けていたベンチから立ち上がった。取材には帽子をとって起立して答える、というのがマナーとされている。私個人は立ってようが座っていようがどうでも良いし、むしろ試合後は疲労あるだろうから、立たなくてもいいとすら考えている。林選手のマナーの良さより、あの状況で周囲を観察する視野の広さに感心した。「扇の要」と評される捕手にふさわしい人柄だと思った。

 出雲の植田悟監督は、選手にいつも気配りの重要性を選手に教えているという。

「今は他者への配慮がとくに必要な時代ですからね。また、相手の気持ちを常に想像していると、試合でも相手の意表をつくプレーができるようになる」

 そう、マナーは礼儀にとどまらず、野球の「質」にもかかわってくる。

 投手はイニングの「三つ目のアウト」をちゃんと確認してからマウンドを降りなければならない。とくにランナーがいて野手がエラーをしたとき、投手はカバーリングに回る必要があるからだ。今大会ではゴロが転がった瞬間、フライが上がった瞬間、野手の方を見もしないでマウンドを降りていく投手がいてがっかりした。かつて松坂大輔投手と対戦したPL学園コーチの言葉を思いだした。彼は松坂投手の弱点を見つめるため横浜高校の試合を観察して、あることを発見して驚嘆した。

「松坂は三つ目のアウトをちゃんと確認してからマウンドを降りるんですわ。あんな騒がれている投手なのに傲慢なところが微塵もない。彼相手に隙をつくような奇襲は通じないとわかりました」

 それでPL学園は正攻法で打って勝つしかない、と覚悟を決めたのである。

 龍谷大平安高校の原田英彦監督は、

「本当の1流ほどそういう隙は作らない」

 という。

「外野手でも他の野手がフライを捕るときに、カバーに走らないでガッツポーズしてたりするのがいるんですよ。ホームランを打ったときにプロ野球選手のマネをする選手もいます。そういう選手は甲子園の雰囲気に飲まれて、自分に酔っているんです。気持ちに波があり、たぶんふだんの練習でもそういう態度が出ているんじゃないですか」

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《自宅でしっぽりオフシーズン》大谷翔平と真美子さんが愛する“ケータリング寿司” 世界的シェフに見出す理想の夫婦像
NEWSポストセブン
裁判所に移されたボニー(時事通信フォト)
《裁判所で不敵な笑みを浮かべて…》性的コンテンツ撮影の疑いで拘束された英・金髪美女インフルエンサー(26)が“国外追放”寸前の状態に
NEWSポストセブン
山上徹也被告が法廷で語った“複雑な心境”とは
「迷惑になるので…」山上徹也被告が事件の直前「自民党と維新の議員」に期日前投票していた理由…語られた安倍元首相への“複雑な感情”【銃撃事件公判】
NEWSポストセブン
アメリカの人気女優ジェナ・オルテガ(23)(時事通信フォト)
「幼い頃の自分が汚された画像が…」「勝手に広告として使われた」 米・人気女優が被害に遭った“ディープフェイク騒動”《「AIやで、きもすぎ」あいみょんも被害に苦言》
NEWSポストセブン
お騒がせインフルエンサーのボニー・ブルー(時事通信フォト)
《潤滑ジェルや避妊具が押収されて…》バリ島で現地警察に拘束された英・金髪美女インフルエンサー(26) 撮影スタジオでは19歳の若者らも一緒だった
NEWSポストセブン
山上徹也被告が語った「安倍首相への思い」とは
「深く考えないようにしていた」山上徹也被告が「安倍元首相を支持」していた理由…法廷で語られた「政治スタンスと本音」【銃撃事件公判】
NEWSポストセブン
不同意性交と住居侵入の疑いでカンボジア国籍の土木作業員、パット・トラ容疑者(24)が逮捕された(写真はサンプルです)
《クローゼットに潜んで面識ない50代女性に…》不同意性交で逮捕されたカンボジア人の同僚が語る「7人で暮らしていたけど彼だけ彼女がいなかった」【東京・あきる野】
NEWSポストセブン
TikTokをはじめとしたSNSで生まれた「横揺れダンス」が流行中(TikTokより/右の写真はサンプルです)
「『外でやるな』と怒ったらマンションでドタバタ…」“横揺れダンス”ブームに小学校教員と保護者が本音《ピチピチパンツで飛び跳ねる》
NEWSポストセブン
遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
公設秘書給与ピンハネ疑惑の維新・遠藤敬首相補佐官に“新たな疑惑” 秘書の実家の飲食店で「政治資金会食」、高額な上納寄附の“ご褒美”か
週刊ポスト
山本由伸選手とモデルのNiki(Instagramより)
「球場では見かけなかった…」山本由伸と“熱愛説”のモデル・Niki、バースデーの席にうつりこんだ“別のスポーツ”の存在【インスタでは圧巻の美脚を披露】
NEWSポストセブン
モンゴル訪問時の写真をご覧になる天皇皇后両陛下(写真/宮内庁提供 ) 
【祝・62才】皇后・雅子さま、幸せあふれる誕生日 ご家族と愛犬が揃った記念写真ほか、気品に満ちたお姿で振り返るバースデー 
女性セブン
村上迦楼羅容疑者(27)のルーツは地元の不良グループだった(読者提供/本人SNS)
《型落ちレクサスと中古ブランドを自慢》トクリュウ指示役・村上迦楼羅(かるら)容疑者の悪事のルーツは「改造バイクに万引き、未成年飲酒…十数人の不良グループ」
NEWSポストセブン