そしてマナーは選手だけでなく、観客にも求められる。
大会8日目第三試合、東邦対八戸学院光星戦では、東邦が9回に5点を挙げて劇的な逆転サヨナラ勝利をおさめた。印象的だったのは、東邦アルプスの応援に乗って、プロ野球応援でよくみられる「タオル回し」が外野から東邦側の一塁内野席からバックネット裏、さらに八戸学院光星の三塁側ベンチ上まで到達していたことだった。タオルが回っていないのは八戸学院光星のアルプスだけだった。記者席のそばで笑いながらタオルを回しているお客さんが、まるで追い詰められた人間を楽しんでいるように見えて私の心は痛んだ。
得点差を諦めないで追いかけていく東邦のプレーは感動的だった。ブラバンが踊るように演奏する東邦アルプスも素晴らしかった。その輪の中に自分も入りたいという観客の気持ちもわからないでもない。だがこれはプロ野球ではない。マウンドに立っているのは18歳の高校生なのだ。私もまだ観客が残っている試合後のグラウンドに降りて取材をしたことがあるのでわかるのだが、グラウンドから観客席は意外なほど近く感じる。飲んでいるペットボトルの銘柄もわかる。その近さでタオルをぐるぐる回されたら、マウンドの投手はどのように感じるだろうか。
試合後に八戸学院光星の桜井一樹投手はこうコメントした。
「マウンドから自分たちのベンチの上のお客さんまでがタオルを回しているのを見て、みんな敵なんだなと思いました」
2011年夏から3季連続で甲子園の決勝戦に進出した実績を持つ同校の仲井宗基監督は
「甲子園のまた別の顔を知りました」
と苦笑した。
せめて守っている側の席に座っている観客は、そのような応援の列に加わらない節度が必要ではないだろうか。
これが本当の甲子園の応援だなと感じたのは、初戦で明徳義塾に敗れた境のライト勝部浩平選手の試合後のコメントだ。
「楽しめました。自分はライトで(対戦相手の)明徳義塾のアルプスの近くなんですが、フライを捕ると拍手してくれるんですよ。(相手が常連校なので)完全にアウエーになるかと思ってたら、甲子園は全部のお客さんが応援してくれるんだなと思いました」
甲子園は優勝しても初戦で敗れても、選手たちに良い想い出を残す場であってほしい。