◆理屈や観念よりも一番大事なのは情
昔は〈箸の上げ下ろしにうるさい〉〈イチャモンつけの元祖〉と呼ばれた。その元祖が〈いちいちうるせえ〉と思うのが、今の日本だ。
「やれ保育園がうるさいの、犬がうるさいのと、ただの文句を正論めかして言ってみたり、大抵は自分が溜飲を下げたいだけでしょう? かと思うとスーパーには〈NO レジ袋〉カードが用意され、袋は要らないと声に出すことすら億劫がる。『レジ袋は御入り用ですか?』『いいえ、要りません』とそれだけの会話を省くことが本当に合理的で進歩的なのか。本当にくだらないことだと私は思いますね」
〈かつての日本人は「不幸」に対して謙虚だった〉とある。〈耐え難きを耐え許し難きを許すこと、それは最高の美徳だった〉と。
「今は教育でも理屈や観念が幅を利かせていますが、一番大事なのは情ですよ。そりゃ昔は親が子を感情に任せて平気で殴った。でも子供はそんな中にも理屈ではない親の情を感じているから、黙って耐えた。そうした経験があるから、社会に出て理不尽な経験をした時にも耐えられたんです。
今も昔も、社会なんて理不尽が充ち満ちています。生きるとは幾多の理不尽をかい潜り、慣れたり諦めたりすることです。なのに今は親に殴られたこともない人間ばかりだから、文句ばかり言うし、文句を言われないように神経をすり減らして生きている。これは完全に日本人の劣化ですよ」