ライフ

【著者に訊け】佐藤愛子氏 『九十歳。何がめでたい』

自著『九十歳。何がめでたい』を語る佐藤愛子氏

【著者に訊け】佐藤愛子氏/『九十歳。何がめでたい』/小学館/1200円+税

 一昨年、約2年がかりの大作『晩鐘』を完成させた佐藤愛子氏(92)は「書きたいことは書き尽くして、全部終わった」と、絶筆を宣言したはずだった。

「ところが今度は何もすることがなくなって、うつ病みたいになりましてね。そんな時に運良くこのエッセイの話を頂いて、仕事をしたら元気になりました。それで私は、常に回遊していないと生きられないマグロのような人間だったのか、と(笑い)。人間は、のんびりしようなんて考えてはダメだということがよくわかりました」

 名づけて『九十歳。何がめでたい』。日に日に遠くなる耳や手の痛みなど、〈長生きするということは、全く面倒くさいことだ〉と痛感する著者は、新聞やテレビにも怒りの種を見つけ、それを「何がめでたい」と断じてみせる。とはいえ、怒ることはさぞかし体力を消耗させる作業だろうと推察するが、佐藤氏は違う。

「私は怒ると元気になる厄介なタチなんです(笑い)。徒然草の『おぼしきこと言はぬは腹ふくるるわざなれば』ですね、言いたいことも言わずに黙っているのが一番疲れます」

 2001年の代表作『血脈』では父・佐藤紅緑や異母兄サトウハチローら、一族に脈々と継がれた〈荒ぶる魂〉を。先述『晩鐘』では、事業に失敗し、借金から妻子を守るべく離婚を切り出した元夫との波瀾の日々を描いた佐藤氏の書きたいものとは、対象こそ一見身近ながら、書けば書くほど途方に暮れるような人間の不可思議さにあった印象がある。

「私は人間に対する好奇心が人一倍強いみたいなのね。人間を描くという意味では小説もエッセイも変わらないし、『血脈』も『晩鐘』も面白い人間がいたから書けたとも言える。エッセイは、人間のある断片を書けばいいわけで、本質はエッセイの方が向いているかもしれません」

 そう軽々と言ってのける佐藤氏の作品の魅力は、怒り、それから悲しみや寂しさすらも笑いやユーモアに変える、その筆力だ。

関連記事

トピックス

会話をしながら歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《ベビーカーショットの初孫に初コメント》小室圭さんは「あなたにふさわしい人」…秋篠宮妃紀子さまが”木香薔薇”に隠した眞子さんへのメッセージ 圭さんは「あなたにふさわしい人」
NEWSポストセブン
試練を迎えた大谷翔平と真美子夫人 (写真/共同通信社)
《大谷翔平、結婚2年目の試練》信頼する代理人が提訴され強いショックを受けた真美子さん 育児に戸惑いチームの夫人会も不参加で孤独感 
女性セブン
阪神独走Vで藤川監督の高知商の先輩・江本孟紀氏が「優勝したら母校に銅像を建ててやる」の約束を「忘れてもらいたい」と苦笑 今季の用兵術は「観察眼が鋭い」と高評価
阪神独走Vで藤川監督の高知商の先輩・江本孟紀氏が「優勝したら母校に銅像を建ててやる」の約束を「忘れてもらいたい」と苦笑 今季の用兵術は「観察眼が鋭い」と高評価
NEWSポストセブン
59歳の誕生日を迎えた紀子さま(2025年9月11日、撮影/黒石あみ)
《娘の渡米から約4年》紀子さま 59歳の誕生日文書で綴った眞子さんとまだ会えぬ孫への思い「どのような名前で呼んでもらおうかしら」「よいタイミングで日本を訪れてくれたら」
NEWSポストセブン
「天下一品」新京極三条店にて異物(害虫)混入事案が発生
【ゴキブリの混入ルート】営業停止の『天下一品』FC店、スープは他店舗と同じ工場から提供を受けて…保健所は京都の約20店舗に調査対象を拡大
NEWSポストセブン
藤川監督と阿部監督
阪神・藤川球児監督にあって巨人・阿部慎之助監督にないもの 大物OBが喝破「前監督が育てた選手を使い、そこに工夫を加えるか」で大きな違いが
NEWSポストセブン
海外から違法サプリメントを持ち込んだ疑いにかけられている新浪剛史氏(時事通信フォト)
《新浪剛史氏は潔白を主張》 “違法サプリ”送った「知人女性」の素性「国民的女優も通うマッサージ店を経営」「水素水コラムを40回近く連載」 警察は捜査を継続中
NEWSポストセブン
ヒロイン・のぶ(今田美桜)の妹・蘭子を演じる河合優実(時事通信フォト)
『あんぱん』蘭子を演じる河合優実が放つ“凄まじい色気” 「生々しく、圧倒された」と共演者も惹き込まれる〈いよいよクライマックス〉
週刊ポスト
石橋貴明の現在(2025年8月)
《ホッソリ姿の現在》石橋貴明(63)が前向きにがん闘病…『細かすぎて』放送見送りのウラで周囲が感じた“復帰意欲”
NEWSポストセブン
決死の議会解散となった田久保眞紀・伊東市長(共同通信)
「市長派が7人受からないとチェックメイト」決死の議会解散で伊東市長・田久保氏が狙う“生き残りルート” 一部の支援者は”田久保離れ”「『参政党に相談しよう』と言い出す人も」
NEWSポストセブン
ヘアメイク女性と同棲が報じられた坂口健太郎と、親密な関係性だったという永野芽郁
「ずっと覚えているんだろうなって…」坂口健太郎と熱愛発覚の永野芽郁、かつて匂わせていた“ゼロ距離”ムーブ
NEWSポストセブン
新潟県小千谷市を訪問された愛子さま(2025年9月8日、撮影/JMPA) 
《初めての新潟でスマイル》愛子さま、新潟県中越地震の被災地を訪問 癒やしの笑顔で住民と交流、熱心に防災を学ぶお姿も 
女性セブン