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天皇陛下が苦悩される殯(もがり)の記憶

 新たな天皇は、崩御当日には皇位継承の証となる天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)と八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)、国璽(こくじ)と御璽(ぎょじ)を受け継ぐ『剣璽等承継(けんじとうしようけい)の儀』が行われ、翌日には新しい元号が発表、さらに翌日には天皇としてはじめて声明を発表する『即位後朝見の儀』などが立て続けに行われる。

 当時、宮内庁の報道室に勤めていた皇室ジャーナリストの山下晋司氏はこう振り返る。

「棺に供え物を捧げる『日供(にっく)の儀』など毎日欠かさず行われるものも、逐一、陛下に相談した上で進められました。ご遺体を埋葬する御陵の造営や、大喪の礼に向けた準備なども同時並行していきます」

 もちろん、古来の伝統的な「儀」がすべてではない。通常の務めである国事行為などの公務はその間も途切れることはなく、諸外国からの弔電に目を通し、答電されるのも、新たな天皇の役目。

「昭和天皇の“遺品整理”も差し迫っていました。皇位と共に伝わる由緒ある物(=御由緒物)か、昭和天皇の個人所有物かの仕分けです。御由緒物であれば相続税はかかりませんが、個人所有物は課税対象になるのです。たとえば、三種の神器や数百年前から天皇家に伝わる物は御由緒物、明治以降の献上品は個人所有物、といった具合です。

 仕分け作業は職員が行いましたが、陛下にご説明し確定させていきました。また、昭和天皇の公務はすべて陛下が引き継がれましたが、皇太子時代に陛下が行われていた公務をすべて皇太子殿下に引き継がれたわけではありませんでした。公務の“交通整理”も陛下のご意向を伺いながら決めていきました」(前出・山下氏)

 大喪の礼が過ぎても、節目で「儀」が行われる上、『即位の礼』に向けた準備も始まる。天皇はもちろんのこと、皇族方、それを取り巻く職員に休む暇はまったくない。だが、こうした目に見えるものだけが、陛下が苦悩を示される記憶ではない。前出の皇室ジャーナリストはこう忖度する。

「『殯』の期間中に、ご遺体は腐敗し白骨化していきます。棺の中とはいえ、おそばに皇族方が控えられるという状況に抵抗感や、より悲しみを増幅させてしまうのではないかというご不安も抱かれていることでしょう」

 また、前出の神田氏はこう続ける。

「振り返れば、崩御の前年に昭和天皇が体調を崩されてから、ご病状に加え、心拍や血圧、吐血や下血量まで連日報じられました。当時の陛下、そして皇族方はどのような思いでそれをご覧になっていたのかと思うと、非常にいたたまれない気持ちになるのです」

 菅義偉官房長官は、8月22日の会見で、生前退位の議論を「できる限り国民にオープンに進めていくことが大事だ」と述べた。

 生前退位が叶えば、最期を天皇として迎えることはなくなる。そうすれば、陛下の苦悩も取り除かれるのかもしれない。

撮影■雑誌協会代表取材

※女性セブン2016年9月8日号

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