ビジネス

借りた金を返せない・返さない者は社会人とは呼べない

 ここ数年、借金としての奨学金問題がクローズアップされている。その際「給付型にすべきだ」や「学問を学ぶ権利を阻害している」などと批判を受けることも。経営コンサルタントの大前研一氏が、その実態について解説する。

 * * *
 安倍政権が、大学生らを対象にした返済不要の給付型奨学金を来年度から導入することを検討している。給付型奨学金は「経済格差の解消」という名目で与野党から実現を求める声が相次ぎ、安倍晋三首相が3月に創設を表明。先の参院選で自民党が公約に「創設に取り組む」と明記し、民進党など野党側も創設を公約に盛り込んでいた。しかし、これは大間違いだ。

 もともと貸与型の奨学金を返せない人が増えていることが背景にあるが、「借りた金は返す」のが当たり前だ。「減額返還」や「返還期限猶予」といった制度もあるのに返せない者や返さない者を“社会人”とは呼ばない。

 しかも、日本学生支援機構(旧・日本育英会)の奨学金は公的制度であり、返還金は直ちに後輩の奨学金として貸与する仕組みになっている。それを同機構の取り立てが厳しくないからといって踏み倒すのは公金横領も同然であり、(病気や親の失業など特別な事情がある場合を除き)そういう不心得者を見逃して税金で補するのは言語道断である。

 たしかに、景気も給料も右肩上がりだった時代に比べると、今は奨学金の返還が困難になっている。大学の初年度納付金は国立でも約82万円(授業料約54万円、入学料約28万円)、私立は約112万円(授業料約86万円、入学料約26万円)で、国立大は40年前の15倍に達している。地方から都市部の私立大に入った場合、生活費も含めればざっと年間300万円、4年で1200万円ほどかかる。

 それを補うために、たとえば日本学生支援機構の第二種奨学金(利息の上限が年率3.0%、在学時は無利息)を大学4年間「月額10万円、入学時特別増額50万円、機関保証制度利用なし」という条件で借りるとして同機構のホームページでシミュレーションしてみると、貸与総額530万円、返還総額約715万円、返還回数240回(20年)、月賦返還額約3万円となる。つまり“715万円のマイナス”から社会人生活がスタートするわけだ。

 その一方で、サラリーマンの給料は、この20年間ほとんど変わっていない。仮に初任給が月20万円・年収300万円とすれば、20年間にわたって毎月3万円・年間36万円ずつ返していくというのは、かなりきつい。これは小学生でも計算できることである。

 だからといって奨学金を返せない人が増えている問題を解決するために税金を使うのは、将来世代の借金を増やすだけだから、絶対にすべきではない。そんなことをしていたら日本人はいっそう将来に不安を抱いて財布の紐が固くなり、ますます経済が萎んでしまう。

※週刊ポスト2016年9月16・23日号

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン