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70年代の新宿の裏通りを生き生きと描き出した青春小説

 盛り場の魅力は、裏通りのざわめきにある。いかがわしい場所と思われるところに、はみ出し者たちが集まってきて活気を作り出してゆく。一九七〇年代はじめの新宿がまさにそうだった。サブカルチャーはここから生まれた。

 フーテン、家出少女、挫折した政治青年、落ちこぼれの学生、テキヤややくざといった管理社会の外側にはみ出してしまった者たちが、新宿の裏通りではなんとか生きることが出来た。

 著者は一九五〇年生まれ。七〇年代の新宿を若者として生きた。『新宿物語’70』は、その体験から生まれた熱い青春小説。あの頃の新宿についてはさまざまに語られているが、自らの体験を踏まえ、これほど裏通りの隅々まで生き生きと描き出した小説はなかったのではないか。

 七つの短篇から成る連作。「僕」は山梨県から出て来て東京の大学に入ったが、すぐにドロップアウト。いつのまにか新宿が「私の大学」になってゆく。まさに「書を捨てよ街へ出よう」の時代。新宿の、自由で野放図な熱気に、血が騒いだとしかいいようがない。

「僕」は自分の手づくりの詩集を新宿の通りで売る。街頭詩人。雑踏に身を置くことでフーテンや家出少女たちと親しくなる。テキヤやトルコ風呂の経営者とも顔見知りになる。新宿は懐の深い町で、やさぐれものたちを受け入れる。かつて林芙美子が『放浪記』で描いたように。

 家出した娘を探しに新宿に出てきた父親の話が泣かせる人情話になっている。男やもめの父親は、盛岡の市役所を辞め、新宿で娘を探す。「僕」をはじめ新宿人たちがそれを助ける。父親は次第に新宿に溶けこみ、おでんの屋台を始め、なんと若い女性と結婚する。再会した娘はそんな父親を祝福する。

 新宿の町は、落ちこぼれた者たちが助け合って生きる共同体になっている。現代風にいえばセーフティネットだろうか。風俗営業の店をいくつも持つ女性は、こんなことをいう。「これまで多くの女の子や男の子の面倒を見てきたけど、新宿の街に集まってくる子たちって結局は弱い者ばかりなの。みんなで助け合って生きる以外にないの」。

「僕」は北海道をヒッチハイクする。福生の米軍基地でベトナム戦争で死んだ米兵の死体を清める仕事をしたこともある。あの時代ならではの豊かな青春が羨しくなる。

■文・川本三郎

※SAPIO2016年10月号

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