今回、格差が拡大していることに対していいか悪いかという議論なら適当ですが、世界の絶対的貧困と混同するほど無意味な議論はありませんし、思い切って問題を訴えようとした女子高生の心を傷つけること。最近はマスコミの報道を見ていても、一人の個人のことを寄ってたかって議論する傾向がありますが、問題は全体として考えるべきです。無意味なケンカをするのではなく、もっと建設的に解決していこうと提案したいのです。
そして、少子化で少なくなった若い人たちを手厚く支えて、将来に向かって有意義な勉学に励める環境に高めることがこれからの課題だと思うのです。大学生が奨学金という500万円前後の大きな借金を背負って社会に出て行くこの現象は、異常だと私は思っています。今、文科省も考えているようですが、国がプラスの金利付きの奨学金で苦しめる状況ではなく、国がマイナス金利の時代なのだから、勉学に集中できるようにまず奨学金は0%にして、日本の将来を背負って立つ若い人たちをフォローしていくべきです。
昔は野口英世をはじめ、苦学して立身出世した人達は大勢いますが、その時代は教科書が非常にしっかりしていました。近年でも、戦後1970年代前後までとゆとり教育元年の教科書と比べたらまるで月とすっぽんです。学校でほとんど教えられず、塾や家庭教師や参考書代を使える一部の裕福な子供たちだけはいい教育を受けられて、それ以外の子供たちは切り捨てるようなことをしていたら、相対的貧困率の更なる上昇に結びついてしまう。このことを視野に入れていたからこそ、90年代後半からゆとり教育を強く反対していたのです。
世界では、さまざまな企業が数学力を持つ人を採用して大切にしています。「数学は役に立たない」とばかなことを言っているのは日本くらいです。進学できない、勉強できないでは悪循環。それでは日本の劣化が進んでしまうことを今こそ真剣に考えるべきなのです。
【芳沢光雄(よしざわ・みつお)】
東京理科大学理学部教授を経て、現在、桜美林大学リベラルアーツ学群教授(桜美林大学学長特別補佐)。理学博士。著書に『論理的に考え、書く力』(光文社新書)や『生き抜くための高校(中学)数学』(日本図書センター)など。