実は筆者は、この番組制作サイドからコメント依頼を受けていた。「抗争の一方だけを取材し、両論併記になっていないため」という理由からだった。
東海テレビ宣伝部は放送について、「番組の編集方針に関わる内容であるため、回答については控えさせていただきます」と答えたが、放送までに局内で相当の議論や逡巡があったことは間違いない。
テレビ初の直参インタビューも、話題は新神戸駅の騒動から始まった。直参はかなりきつめの言葉で話し始めた。
「これはちょっと許されんなと思ってね。神戸駅で親分にサインくださいとか。神様ですよ。我々にとったら。親分って。つい1年前まで、親分の写真をおいて『はー』って思っとった者が、このガキら、自分らがしたことがどんだけ後日マイナスになるかということを理解できてない」
前述したとおり、ヤクザの美学からすれば完全にアウトの事例なので、六代目側の組長にとっては格好の攻撃材料だったろう。
だが、後に続く主張に目新しい内容は皆無だった。「分裂」を「謀反」と表現するなど、自陣営を100%正当化したものだ。活字メディアでは既出であり、いまさらという感想しかない。それでも動画は消しゴムで修正するわけにいかないので、細部の言い回しは刺激的ではあった。
「向こうの井上次第でしょ。井上が親分のとこに来て、『勘違いしてました。申し訳ありませんでした』と言うたらそれで終いですよ」
などという言い回しは、たとえ相手がそのとおりにしゃべっても活字メディアでは書けない。インタビューで相手のトップを「井上」と呼び捨てにしたのは、相手への侮辱という意味でヤクザ社会では同様にタブー視される表現だが、「サイン挑発」のお返しとしてあえて使ったのだろうか。
※週刊ポスト2016年9月30日号