だが、私が連載第2回で取材したスウェーデン人女性は、緩和ケアさえ拒否し、最期まで苦しむことを意図的に避けた。結果、「ブリタニーよりも」死期は早まったかもしれない。
 ただ、その差違は大きなものなのか。そこで私は、ダンにこう尋ねる。生きたかったブリタニーが、なぜ最終的に致死薬を飲むことを決めたのですか? すると、ダンは、やや間を置いてから、こう説明する。

「その時期がやってきたことを、彼女が身をもって感じたからです。健康な人々は生きるプロセスを経験する一方、末期患者は死のプロセスを経験するといわれる。例えば、92歳の人間が死に向かっている時には、それに気がつく何かがあるといいます。それと同じ死期を、彼女は感じ取っていたのです」

 痙攣発作が日ごとに悪化した、ある日、彼女はそっと呟いたという。

「そろそろ、死ぬような気がする……」

 オレゴン州に2人が住み始めたのは、2014年の5月。その2か月前に余命半年を宣告されていたブリタニーは、計算にくるいがなければ9月には死を迎える運命だった。薬の影響で体重も3か月間で、25ポンド(約11kg)増量。美貌の彼女は、鏡を見ることも嫌になった。だが、「生きたい」と願う彼女は、特定の二つの日付を設定し、その都度、その日を目標に生き延びる努力をした。

「一つ目が、私たちの結婚記念日である9月29日。もう一つが、私の誕生日である10月26日。可能ならば、その翌月の11月1日まで生き延びられたらという希望を持っていたのです」

 この頃、米テレビ局CBSやNBCは、ブリタニーの取材をオレゴンの自宅で決行した。
 ダンがいまでもメディアを快く思わないのは、「情報が都合良く操作されたからだ」と明かす。

 ブリタニーは、彼が言うように、出来る限り先の日付を設定し、生きる希望を抱いたのだが、メディアは、「ブリタニーの死亡日は11月1日」と、センセーショナルに報じた。メディアに死を宣告されたようで、ダンは「とても腹立たしい」と、苛立った。

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